第29話 予感

 聖剣の王の領地、ブリザード国──


 ここでは、キャスト王に召集された7人の騎士たちが集まっていた。

 朝焼けが美しい街並み。

 そんな景色とは裏腹に、城の中では不穏な空気が流れていた。

 

 「我が王はついに征伐に乗り出すおつもりなのか?」


 そう言うのは聖騎士が一人ベルドベールである。

 男でありながら、とても美しく女と見間違われるのが多い騎士であった。


 「我が王が決めたことであれば、我らはそれに従うだけ」


 そう言ったのは聖騎士最強と言われるラリュスト卿である。

 その顔は男前と言えるほどで、女にモテるといつも自慢する騎士であった。

 まぁ、そのせいでトラブルも多いのだが。


 「我が王の力は絶対なのだ。

 あの聖剣の輝き。すべてはこの悪しき世界を救うため。」


 窓から外を見て言うのは、アラベルフィン卿である。

 聖騎士たちのリーダー的存在であり、キャスト王に一番最初に使えた人物である。


「ですが!王は本当に連合と戦われるおつもりなのでしょうか?

今の我々では、せいぜい五分! 到底正気の沙汰とは……」


 そう言うのは、炎の聖剣使い、ギャリエル卿。

 彼は捕虜となっていたため、落ち込んでいたが、もう立ち直ったようであった。

 そして聡明な騎士らしい騎士と言えよう。


 「なんだ!もう怖気ずいたのかギャリエル!

 俺は賛成だぜ!王がそう言うのなら、何か勝算があってこそだってな!」


 両手を後ろに回し、柱によしかかりながら生意気口調で言うのは、唯一の女の聖騎士。モルセーロであった。

 王に拾われ、王宮で騎士として育てられた、雷の聖騎士である。


 「皆さん落ち着きがありませんよ。

 我らが王が来た時に、そのようなだらしない醜態を見られたらどうするのです。」


 彼はトリレラス。

 大人しい音の騎士である。聖剣には弦が張られていた。

 そしてその弦を『ベンッ!』と鳴らすと全員の体が一気に痺れた。


 「おい! トリレラス!

 いきなり弦を鳴らすんじゃねぇ!」


 「これは失礼。あまりにうるさいもので。」


 痺れさせられた騎士はモルセーロ以外はムッとした表情を浮かべ黙ったままだった。


 「まぁ、それはそうとして兄上!王はまだ来ないのですか?」


 彼は聖騎士の中で、一番若いギャリエル卿の弟、ギャラルス卿である。


 「そうだな?どちらにいらっしゃるのだろうか。」

 

 ギャリエル卿が様子を見に行こうと扉に手をかけようとすると、キャスト王が目の前に扉を開けて入ってきた。

 ギャリエルはすぐさまみんなの元へ滑り込む。

 目の前に出た王に聖騎士達は急いで跪き、並ぶ。


 「みんなよく集まってくれた。」


 キャスト王が玉座に座り言う。

 それに続いてアラベルフィン卿が挨拶をする。


 「我が王もご壮健でなによりです。

 今日はどのような要件で皆を呼んだのでしょうか。」


 全員が話を聞けるような雰囲気なったとき、キャストは口を開いた。


 「単刀直入に言う。連合のトップが死んだ。」


 「なんですと!」


 みんな驚きが隠せないようであった。


 「密偵の話では、何かを召喚したが、その召喚した者に殺されたようだ。」

 

 「ですがそれだけではよくあることです。

 王が気になさることは他にあるのですか?」


 ベルドベール卿が聞く。


 「ああ、だがその死体が妙なことに、上半身が食いちぎられたような痕跡があったんだ。普通は森羅万象の門番との契約では、必ずこことは違う世界の住人が現れる。」


 「なるほど、人外の者が召喚で現れた。

 ということですね。」


 「その通りだ。

 私には何か嫌な予感がするのだ。」


 キャストの予感。

 彼が守る王妃は唯一召喚の門の中を見たものである。

 彼は、門を見た彼女に、接触しようとしてくるものから守るために存在する。

 門から来た者ならば、真っ先に王妃まで来るかもしれない。そう思ったのだ。


 「皆各々抜かりなく。警戒はこれまで以上にするように。」


 何やらとてつもないことが起こるのを皆勘づいた。


 「そして、その怪物を見つければ、絶対に交戦せず逃げるように。」


 「なぜですか!

 我々は聖剣の騎士!負けることはあり得ません!!」


 「モルセーロ卿、君は好戦的なのが欠点だ。

 いいかい、召喚により呼ばれた者は必ず生き残れるほどの力を身に着けて現界する。つまり人間でない者が、力を持ったということは、誰にも止められることは無いかもしれない。」


 「くっ、分かりました。」


 「わかってくれたようで何よりだ。

 今日はここまでとする。皆それぞれの持ち場に行ってくれ。」


 解散し、城の廊下を歩くキャスト王は手に握りしめられたを見つめながら、窓から空を見上げていた。

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