第25話 友

 王国ラルク、国境付近の陣地──


 ここでは来たる魔術王との決戦のための陣が敷かれていた。

 勇者たちは武具の手入れをしている。

 そんな中、西住海斗は神裕也を呼び出し、テントの裏で会話していた。


 「裕也。お前は逃げろ」


 「はっ」


 突如、海斗によって発せられた言葉に裕也は驚きを隠せないでいた。

 あれほど共に戦おうと言った親友が俺にそう言った。

 

 「おい!てめぇふざけんなよ!あれほど一緒に……」


 その目は悲しそうな、そして死んだような目をしていた。


 「おい、何があったんだ」


 裕也は肩を掴んで聞き出そうとする。

 海斗は顔を伏せながら口を開いた。


 「智が居なくなった」

  

 「は?」


 「あの学校一の不良が消えたんだ」


 天夜智。

 高校でいつも問題ばかり起こす不良だ。

 そいつは召喚された時に、アルベルトという人に連れていかれていた。

 食事の時間では度々会っていたものの、誰ともしゃべらない奴だった。


 「それがこの事と何の関係があるんだ!」


 そう聞くと、海斗は周りを気にし、耳打ちで伝えてきた。


 「俺は三日前に会話を聞いた」


 「会話?」


 「そうだ。

 その会話では、アルベルトていう人が智に命令をしていた」


 命令?

 なんであろうか?

 専属の勇者なのだから特に問題もないと思うが。


 「その会話は、どっかの王様を暗殺しろっていう命令だった」


 「暗殺!?」


 裕也は訳が分からなかった。

 なぜ、俺たちの遠征では無くて、暗殺なのか?

 それを命令して戻ってないとはどういうことか?


 「どうもきな臭い。

 もしかしたら俺たちはハメられているかもしれない」


 「それで俺に逃げろと?」


 「そうだ」


 「いやいや、おかしいだろ!それなら一緒に」


 「俺は無理だ」


 「どうして!」


 そんなことなら一緒に逃げればいい。

 俺たちを縛る約定も、目標を完全に否定しなければ、この世から消えることは無い。だったら一緒に逃げれる。


 「魔術王に対抗できるのは、俺だけだ。

 でなきゃ、皆を守れない」


 最初はこの世界に召喚されたことで、これからの自分の物語に酔いしれていた。

 だけど、違った。

 現実はラノベのようにはいかない。

 結局は利用されていく人形に過ぎなかった。


 「それに、魔術王に対抗できる俺が消えたら、みんながどんな目に合うか分からない」


 「決めたんだな」


 裕也はそういう決断をした海斗をこれ以上止めようとはしなかった。

 あいつは、この異世界での生活で、どこか成長したのだ。

 裕也は願う。

 また会えることを、また笑い合えることを……


 「じゃあ、俺は行く」


 「ああ、気をつけろ」


 「死ぬなよ」


 「ああ」


 そうして俺は戦場を離れ森の中に入って行く。

 また海斗と会えることを信じて。



 

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