第26話 地獄の底
王国ラルク、国境付近──
ここでは連合軍と召喚された勇者。
そして魔術王率いるラルク軍が向かい合っていた。
「これより!長きにわたる5帝王の恐怖に解放されるときがついに来たのだ!
今ここで奴らを根絶やしにしてくれる!」
指揮官のような男が馬上から兵を激励する。
兵士たちはその言葉を聞くと一気に雄叫びを上げた。
「うおおおおおおお!」
その兵士たちの中に、高校生くらいの青年たち数人が紛れてこれからの戦に備えていた。
「やっと俺たちの初陣だ!」
「この世界に召喚されたときにスキルを授かってるんだ!あんな奴ら楽勝だ!」
青年たちは、森羅万象の門番との契約のもとに召喚された勇者のようであった。そして後ろから来た老人に激励される。
「その通りでございます!あなた方の力があれば、魔術王ごとき一捻りでございましょう!」
勇者達は完全に乗せられていた。
国など元から救う気もない若者が、どうしてこんなにも簡単に乗せられ、人を殺す道を選んでしまうのか……
若さとは……愚かとは何なのであろうか。
そんなことを考えることは一切していなかった。
一方ラルク軍はどこから来ようとも万全の布陣を引き、弓矢や槍などの兵装をした兵士が構えていた。
だが、連合の怖いところはその数である。
実際最初は優勢だった魔王もその軍勢の多さの前に破ら去った。
だが、魔術王ガナルゼラシュは笑みを浮かべる。
それはそうであろう。この男は5帝王の中でも最強クラスなのだから。
双方しばらく睨み合い、号令の音と共に連合軍が突撃をしてきた。
「重装歩兵!突撃!!」
大きな盾を構えた部隊が突撃をする。
その地響きは敵の戦意を削ぐには十分であった。
そのはずであった……
進んで行く重装歩兵が急に姿を消したのである。
なんと下には大きな落とし穴が掘られていたのだ。
下には先の尖がった杭があり、次々と刺さっていく。
辛うじて生きている者もいたが鎧が邪魔で上ることができなかった。
そう、彼らは考慮していなかった。ここは敵の庭であると・・・。
つかさず魔術王が指示を出す。
「矢を構えよ!狙うは穴に落ちた歩兵共!ラルクの力量を今見せるがいい!放て!!」
王の魔杖により、強化された矢が鎧を貫く。その様子に、連合軍は戦意を抜かれそうになった。
「怯むなー!弓兵は後ろで待機!歩兵!死体を足場にして進めー!」
今度は持ち味の数で無理やり突破しようと試みた。
無策に思えるが一番効率がいいやり方ではある。そして、その中には勇者達がいた。
「俺たちの力を見やがれ!魔術王!!」
「授かった力を見せてやる!!」
そう言って突撃してくる軍勢。
その様子を見て、魔術王は嘲笑った。
「ふん、戯けが。
道化もここまでとなると一興だな。
2射目を構えよ!あの愚か者共に我らが力を見せるがよい!」
またしても矢の雨が降りかかる。すると先ほどの老兵が勇者に合図を送る。
「今です!勇者様!!」
「ああ!ストップ!!」
西住海斗のスキル。
ストップを発動する。
魔術王は少しだけ驚いた。
なんと放たれた矢が空中で静止していたのだ。
「さすがは勇者様だ!」
「このまま進めー!」
敵兵が突き刺さった死体を乗り越え、落とし穴を突破した。
「我が王!突破してきました!!」
家臣が魔術王にどうするか聞く。
だが魔術王は慌てた様子はなく。平然とイスに座り戦況を見ていた。
「ほう、無策かと思えば考えはあったのだな。蟲のくせに我を遊戯に駆り出すとは随分とやるではないか!
よかろう!
我も蟲遊びに興じてやろうではないか!」
魔術王が本を取り出すと近くにいた家臣が笛で合図を送る。
すると兵が一気に王の近くまで引いて行った。その様子を見て勇者は怯んだと思い込む。
「おい!あいつら引いてったぞ!とんだ腰抜けだな!」
「いいえまだです!
ここからがあなたの力に頼るときでございます!!」
魔術王が本を開くと、周りが青白い光に包まれ、本から金色の光の粒が出てくる。
「少しは我を倒そうと本気になったようだな。
大方勇者が当たりであったのだろうが、すべては無駄に終わることと知るがいい。
貴様らが起こした余興で我の楽しみが潰れたのだ、残虐に殺してやろう。」
本から出てきた光の粒は空中で何万もの魔杖に変わっていった。
「来るぞー!」
「さぁ、貴様らの希望が砕け散る様をこの我に見せよ!オープン・ザ・ワンド!!」
そうして杖の先に光が溜まり、マシンガンのように次々と射出された。
「勇者様お願いします!!」
「くっ!ストップ!!」
轟音が鳴り響き、連合軍は次々と肉の塊に変化していく。
「なんで!?なんで俺の魔法が効かないんだ!!」
兵士が轟音の中恐怖で怯えていく。
その中、あまりの力の差に海斗は戦意が無くなった。
「ふん、戯けが。
我はすべての神話級、伝説級の魔杖を霊体として行動した100年で集めたのだ。
魔法阻害の魔杖など大昔から持っている」
魔術王の何万とある魔杖の中には攻撃だけではない魔杖も含まれている。
魔法の阻害、転移、日常で使える物からありとあらゆる魔杖が揃っている。
そのため最初から勇者の魔法など効きはしなかったのだ。
そして兵の大半を失い、大将さえもバラバラにされた連合は敗走を余儀なくされていった。
そして魔術王は本に魔杖を内包して言う。
「我が手を貸すのはここまでだ!この者達の首を己で刈り取り!手柄としろ!」
逃げる兵たちを追いかけ次々と突き刺し、殺していく。
一方勇者達の一人は魔術王の魔杖により頭が吹き飛び、もう一人は腕が無くなり痛みのあまり大声で泣き喚いた。
そして西住海斗は降り続く血の雨に呆然と空を見上げるだけであった。
「王!降伏した捕虜をここに!!」
三時間たったくらいだろうか。
兵が降伏した者を100名ほどズラリと並べると処遇を魔術王に聞く。
「我に歯向かい、その結果がこの末路だ!
どうなるかは自ずと想像ができよう」
そして伝えられた言葉に敵兵たちが絶望に包まれた。
「使える者は他国に奴隷として売り払え!
そうでない者はこの場で殺せ!!」
腕なり足なり無くなった者は泣き喚いていたが、兵たちに痛みの無いようにとどめを刺された。魔術王は生き残った西住海斗に近づき言う。
「哀れだな。
だが戦とはこういうものだ。
何の大義もない。ただ上に立つ者の欲のままに従わされる。
どんな甘い理想を掲げようとそれが現実だ。
お前たちは我を悪人のように伝えられたのだろうが、こちらからすればお前たちが悪人よ」
不思議とその声はどこかこの勇者を哀れんでいるようだった。
「結局は勝者がすべてだ。
お前たちは現実をよく考えず行動したが故に友を失い、居場所も失った。
召喚されたのは運が悪かったが、我の民を脅かそうとした罪は重い。残りの人生を地獄の底で送るがいい」
そう言って敵兵その数50人は奴隷商人に売り払われた。
この戦いにより、連合は力を落とし、魔術王に進軍する計画は見送られることになる。
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