第24話 刺客はレヴェルトにも
連合本部──
彼はワインを片手に蝋燭の火を見つめていた。
頭蓋骨が並んでいる様はこの男の何たるかを現していた。
その男の傍らには黒衣に身を包んだ青年が跪いていた。
「お前には、少し早く行ってもらう」
「はい。わかりました」
連合の切れ者。
アルベルト・シュルージー。
彼は連合のトップではない。
だが、彼はそのトップを信用していなかった。
「専属の勇者に貴様を指名したのは、貴様の戦い方が、私に合っていたからだ。
いいな。確実に息の根を止めよ」
「はい」
そう言って返事をするのは、天夜智。
西住海斗と同じように、召喚された勇者である。
彼は、殺戮になんの感情もなかった。
まさにこのスキルがあっていた。
気配隠蔽。
暗殺者が持つスキルである。
「目標は東の国ジノラバ。
光の王、レヴェルトでよろしいですね?」
「そうだ。確実に仕留めよ。あの王は危険だ」
噂程度だが、五帝王以上かもしれない力。
どう考えても、この連合の障害になる。
「さぁ、行け。我がアサシンよ」
「はっ」
そうして智は消える。
そしてアルベルトは部屋のベランダから夜空を眺める。
「私こそがこの世界を治めるに相応しいものだ。
いづれ連合も私に跪くことになるだろう。」
夜空はとても美しい。
連合の裏で働く私にとても似合う。
ああ、今日のワインはとても美味い。美味だ。まるで血のように赤い飲み物。
美しい。
「ふっ」
ああ、笑みがこぼれてしまう。
召喚により力を蓄えても、魔術王には勝てないだろう。
そして大きな損害を出す。
いずれ頭は変えられるだろう。
その時が私の好機だ。
そうして、アルベルトは夜空に真っ赤なワインを掲げた。
一週間後のジノラバ、夜──
天夜智は、その城壁を誰にもバレることは無く。
忍び込むことに成功していた。
「あれが、王宮」
美しい。
現代建築でもあのような建物はない。
「さて、俺に与えられた役割をこなすとしよう」
俺は手に持つ短剣。
リッパーを見る。
アルベルト様に与えられた神器。
かすり傷で致命傷レベルのダメージを与える刃物だ。
彼は、召喚前から殺すことになんの躊躇いもなかった。
むしろ殺すことが出来ない現代社会にうんざりしていた。
そして召喚。
これにより彼の理想に近づいた。
彼の特性をいち早く見抜き、暗殺者として育てたアルベルト。
その男に智は忠誠を誓った。
この男なら思う存分人を殺させてくれると。
「まず手始めにお前だ。ジノラバの王」
静まり返った街中を走り抜ける。
物音一つ立てず、風のように駆けた。
王宮の堀を静かに泳ぎ、壁をよじ登る。
(あの隙間が王の間の場所だったな)
そうして、智は王の間の風抜けから侵入する。
中は深夜なだけあってとても暗かった。
だが、彼には暗視のスキルがある。
どこがどうなっているか簡単に分かることが出来た。
──あれは。
その暗い中、玉座に座って寝ている一人の男がいた。
身に着けている装飾品。
気品あるオーラ。
間違いなくレヴェルト王その人であった。
(見つけたぞレヴェルト王。さぁ、お前の血を見せてくれ)
そろりと近づき、リッパーを構える。
背後が隙だらけの男は元居た世界ではイケメンという言うに相応しい顔だった。
綺麗な紅桔梗色の髪。
この美しい首をもって帰りたいと思わせる。
──ああ、ついに人を殺せる。
天夜智は思わず笑みを浮かべる。
そうして刃を振り下ろそうとした時だった。
「本当に、余を刺そうとしているのか?」
「なっ!」
後退る。
この男、気づいている!
「何のようだ?貴様……」
冷気のように冷たい声。
気配隠蔽が効かない恐怖から、足が震える。
背骨が凍り付いたように動かない。
「余を殺そうとする暗殺者か何かか」
なんだこの男……
今まで会ったどの男よりも恐ろしい。
光の王?
いや、俺には氷の王にしか見えない。
一切こちらを見ないその姿勢が恐怖を増長させる。
「くそっ!しねぇぇぇぇぇ!!」
かすりさえすれば即死なのだ。
ならばこのまま振り下ろす。
「腕はどうした?」
「え?」
ぽたぽたと血の滴る音が聞こえる。
レヴェルト王が誰かの腕を持っていた。
──誰の?
ふと、自分の腕が痛む。
まさか……
自分の腕を見た。
先程までリッパーを持っていた腕は消えていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
気づいたとたん一気に痛みが押し寄せる。
この俺が気づかなかった?
腕が落ちていることすら……
──このままではまずい。
「ほう、この刃。強力な呪いが籠められているな」
そう言ってレヴェルトはその短剣を見る。
「ふむ、この程度の呪いで余を消せると思ったか」
今まで会ったことのない男に智はただただ恐怖した。
このままじゃ確実に殺される。
「うわっ、嫌だ。助けてぇぇぇぇ!」
情けない声を上げながら逃げていく。
「そうだ、逃げろ」
そう言ってレヴェルトは追いかけようともしない。
だた暗闇の中で笑みを浮かべていた。
「嫌だ。死にたくない。死にたくない」
痛む腕を押さえて逃げていく。
確実に殺される。
慈悲もなく。ただ、この状況を楽しんでいるようだった王に、
今まで感じなかった恐怖に一瞬で負けた天夜智は脆かった。
涙を流しながら逃げていく。
「ハァハァ、最悪だ。クソ!」
そうして、砂漠まで逃げて行った智は紐で傷を縛る。
「あぁぁぁぁぁ!俺のうでぇぇぇぇぇぇ!」
初めての痛みに涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。
ふとその時だった。
先程まで暗闇の中であったのに、周りが妙に明るい。
そう、空が明るいのだ。
「何?あれ」
涙を流しながら上を見る。
「うわぁ、綺麗」
そう言って天夜智の消息は消えた。
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