第23話 決戦は近い

 連合本部──


 あれから一ヶ月が経とうとしていた。

 勇者は己のスキルの性能を掴み始め、そこらの雑魚では倒せないほどに成長している。

 中でも西住海斗は飛んでくる物体を強制に止める力。

 スキル名はストップを持っていた。

 これは対魔術王戦にもってこいだと重宝された。


 「海斗様、あなた様が居れば魔術王など敵ではありません」


 目付け役の老人がそう言う。

 海斗自身も悪い気がしていない。

 これが勇者かと、胸いっぱいに敵った夢を噛みしめた。


 「任せろ。俺にかかれば五帝王ごときに遅れはとらん」


 必ず倒してやる。

 五帝王ってやつが世界を脅かしてるのなら必ず。

 そうして老人がこの俺にこれからの行動のことを話すと、退出した。 


 「よう」


 その時、裕也が部屋に入ってくる。

 裕也は剣術のスキルが卓越している。

 その中でも見えない剣。

 スキル名、インビジブルソードはとても強力だった。


 「おう、裕也。そっちの訓練は終わったのか?」


 「まぁな、ああ疲れたぜ」


 このクラスは召喚されて以来、ほぼ訓練ばかりされている。

 魔法文化の無い地域から呼ぶのは生贄を少しで済むが、一から魔法とはを教え込まなければならない。

 そのため時間が必要だった。


 「みんなは?」


 「ああ、街に行って買い物してるぜ。まったくのん気なもんだよな」


 「ああ、そうだな」


 午前中は自由を認められている。

 ラノベの展開であれば、ここを抜け出す者が出てくるものだが、現実的に考えて、抜け出したところで生きていけない。だったらここの世話になった方がいい。

 それに俺たちは縛りがある。向こうが提示した願いを果たさなければこの世から消えてしまう。


 「なぁ、魔術王はどんな奴だと思う?」


 裕也がそう聞いてくる。

 魔術王。

 ここの物語を読んだが、かなり手強いだろうな。

 冥界を彷徨った王。神話や伝説に登場する魔杖を集めた者。

 この肩書通り、魔杖で攻撃するだろう。

 まっ、俺のストップがあれば遠距離の攻撃は大丈夫だ。

 

 「まぁ、俺のスキルがあれば大丈夫だ。安心しろ」


 「そうだな。

 信頼してるぞ。勇者殿」


 「ふっ、それはお互い様だろ」


 俺は裕也と拳を合わせる。

 戦争は初めてだ。

 もしかしたら殺せないかもしれない。

 でも殺らなきゃ殺される。

 なら、とことんやってやろう。


 「だけどよ、聞いた話じゃ五帝王って奴らを倒すのに、多くの軍隊が犠牲となったんだろ?今回の兵は十万の兵士と俺たち。大丈夫か?」


 「そうだな」


 この世界のことは教えてもらった。

 魔王掃討大戦。

 何とか倒せたが随分犠牲者を出したらしいな。

 今回はその戦いの十分の一の兵力。

 とても正気とは思えない。


 「まぁ、兵が足らないだろうな」


 「そうだろうな。そうとしか考えられない」


 そう考えていた時、塔の鐘がなる。

 どうやら、食事の時間らしい。


 「おっ、そろそろ食事の時間だ。行こうぜ」


 「ああ」


 「この夜の時間は修学旅行みたいでいいよな」


 「そうだな」


 そう言って俺たちは廊下を進む。

 確かに二人一組で部屋が割り当てられているし、時間を決められた生活。

 そして、この国の観光。確かに修学旅行みたいだな。訓練以外は……


 「後三日か。

 死ぬかもしれないな」


 「ああ」


 「怖くないのかよ!死ぬかもしれないんだぞ!」


 「怖いさ。でも俺たちがやらなきゃ」


 そう。

 勇者に憧れていたけど、いざ戦うとなると怖い。

 そのせいで夜も眠れない。

 ほんとは帰りたいさ。

 でも、帰る方法はない。それに目的を達しないと、どのみち死ぬ。

 ならやるしかない。


 「お前の武運を祈ってるよ」


 裕也も怖いんだろう。

 足が震えている。


 「ああ、お互い頑張ろう」


 そう言って城の階段を下りて行った。

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