第21話 ならば余は兄

 「レヴェルト様と戦う!?」


 リサはその言葉に恐怖を覚えた。

 戦ったことすらない。そんな自分が果たして相手になるものか。


 「そうだ。貴様に王者の気風があるのか、この余が見定めてやろう」


 そう言うとレヴェルトに光が覆う。

 先程のラフな格好から一変して、黄金の鎧を身に纏い、下ろしていた髪は上げられ、何かの杖だろうか?武器のようなものを持っていた。


 「無理です!」


 「であれば貴様は放浪の時を続けるだけだ。現状を変えたいのではないのか?」


 そうだ。

 私は父の仇を討つために、そして民たちを救うために……

 その言葉にリサの意は決した。


 「行きます」


 リサの決意は固まった。

 そして手に魔力を溜めた。


 「その意気や良し!さぁ、余に抗ってみせよ!!」


 リサは手に溜めた魔力弾を放つ。

 それは真っ直ぐにレヴェルトを捉えていたが、当たる前に何かに阻まれる。


 「なっ!結界」


 「ハハッ、この程度か?その程度であれば、余の玉体に傷をつけることすら叶わん」


 「いえ、まだまだです!」


 今度は体術でレヴェルトに襲い掛かる。

 どうやら戦いにおいては天賦の才があるらしい。

 だが、その程度では彼に汗を流させることもできない。


 「ハハッ、良いぞ!もっと見せよ!!」


 くっ、強い。

 私が赤子扱いされている。

 こんなにも体術で攻撃しているのに、簡単にいなされてしまう。

 なら今度はこれで!


 「光魔法、金色の剣雨!!」


 「何!」


 レヴェルトは驚く。

 これで分かった。

 この者は余と同じ輝く者。光ある者。

 そうか、余が感じていた気配はまさに……

 血の繋がりは無くとも、神威によってつながっている。

 そう。

 

 ──この者は余と兄妹ということか。


 黄金の剣の雨。

 それがレヴェルトの頭上へと降り注ぐ。

 まるで地をなだめる雨が如く、それは美しく、神秘に溢れていた。

 怒号と共に地上が爆発する。

 

 「ハッ、しまった!うっかり殺してしまったかもしれない!」


 リサは急いで駆け寄る。


 「あの、レヴェルト様。大丈夫ですか?」


 ──え?


 剣の雨が当たった所にはレヴェルトの姿がなかった。

 それどころか死体もない。


 (どういうこと?確かに当たったはず)


 リサは周りを見渡す。

 だが、どこにもレヴェルトの姿がない。


 『まさか、貴様にこれを使わねばならんとはな。やるではないか』


 姿が見えないのに声だけが聞こえる。

 どういうことかリサにはまるで分からなかった。


 『安心しろ。貴様も最果ての王になれば、これを使いこなせるようになる』


 そう言ってレヴェルトは姿を現す。

 光の粒が集まっていき、人の形を成しその御身を作る。

 スキル名は後光隠蔽。

 全ての王が行きつきたい領域に達した者が使えるスキルである。


 「すごい」


 リサは思わずそう呟く。

 だが、レヴェルトは先ほどの攻撃で、その戦闘狂魂に火はついたのか、上から睨みつけ言う。


 「今度はこっちから行かせてもらおう」


 「え?」


 「せいぜい避けろ!」


 レヴェルトはその杖らしき棒を振り下ろす。

 すると、空がいきなり金色に光り輝きだした。


 「触れれば瞬く間に蒸発するぞ。死ぬ気で避けるんだな」


 「ちょっ、レヴェルト様……」


 「ルクスプルヴィア」


 何事かと思えば、空から沢山の光が放射される。


 「えぇぇぇぇぇぇ!」


 リサはその光を避け続ける。

 文字通り、死ぬ気で。

 

 ちょっと、これ少しでも触れたら死よ!

 レヴェルト様、完全に殺す気で来てる!!


 避け続けるが、いずれ体力が尽きてしまう。

 先程の攻撃が自分の中の最大攻撃魔法だったため、あの王に放っても二度は通じないだろう。


 ──どうしよう!どうしよう!


 リサは必死で考える。

 何とかこの状況を打開することが出来ないかと……

 もう避けきれない。

 ダメだ……


 ──これは?


 思い出すは記憶。

 遠き父と母の記憶。


 「この子を頼むわ」

 

 「ああ、お前の分までこの子を育てて見せる」


 「私は貴方の妻で幸せだったわ」


 「こちらもだ。この子は私達の血を引いてる。いずれ龍族と魔族の中でも一番の王になる」


 光龍の母。

 魔王の父。

 その間に生まれた子がリサ・レイ。

 ならば、負けることは無い。

 絶対に……


 ──母上、父上。私は……



 「何?」


 一面が光り輝く。

 そして空から降るルクスプルヴィアの光を掻き消した。

 天まで上るその光は、大地を覆い隠す。

 レヴェルトですら凌ぐその光、まさに神のものというに相応しかった。

 

 「ほう、まさかこれ程とはな」


 現れたのは金色に輝く龍。

 そう、伝説上の存在。神の如く力を有し、多くの龍種の頂点に立つ者。

 名を、光龍リサ・レイ。

 

 「やはり貴様は余と同じ存在か」


 『まだやりますか?』


 龍の口が開き、そう告げる。

 もう負けないと言うように、レヴェルトはその目を嬉しみの笑顔で見つめる。


 「いや、お前を倒すには、余の最大攻撃魔法を使う必要がある」


 『え?』


 光龍となったリサは驚く。

 先程の攻撃はレヴェルトの最大攻撃魔法では無かったのだ。つまり本気を最初から出されていなかった。


 「余はそこまでする気はない。先程から感じていた妙な気配の正体も分かったしな」


 『はぁ』


 「人型には戻れるか?」


 レヴェルトは鎧を解きそう言う。


 『はい!戻れます』


 そうして戻ったとたんリサは目を丸くした。

 なんと自分は裸だったのだ。


 「キャァァァァァ!」

 

 リサは前を隠す。


 「ほう、龍化すると服が無くなってしまうようだな」


 レヴェルトは自分が着ている黒衣の衣装をリサの肩にかける。


 「あの、レヴェルト様」


 「仇は自分で取れ」


 「え?」


 「余の協力はいるまい」


 「はい……」


 少し寂しそうにリサは言う。

 また放浪の生活するということもあったが、自分は結局レヴェルトに認められなかったのかと思った。


 「だが、帰る場所は無いのであろう?ならば、余の王宮に住むことを赦す」


 「え?」


 「そして王とは何たるかを余を見て学べ。お前はまだ王になるには知識が無さすぎる」


 「え?」


 自分はレヴェルト様の横に居ていいのだろうか?しかもあんなに大きな王宮に住んでもいいのだろうか?

 そう疑問に持つ中、レヴェルトは衝撃の言葉を放つ。


 「余とお前の神威は似ている。ならば余が兄、お前は妹ということだ」


 「ふぇ?」


 「妹を野に住まわせる兄は居まい。故に赦す。これから余を兄と呼ぶがいい!」


 レヴェルトはそう言って王宮へと帰っていく。

 その姿を見守りながらリサは考える。

 

 ──私が妹?レヴェルト様の?


 最初は意味が分からなかったが、憧れの存在が兄と呼んでいいと言ってくれたことに嬉しさを覚えた。


 「はい!お兄様!」


 そう言ってリサはレヴェルトについて行った。




 余談

 レヴェルトの姉であるフロースも気づけばお姉様と呼ばれた。

 ちなみにフロースは初めての妹にゾッコンらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る