第20話 願い

 城壁都市ジノラバ──


 「そ奴は誰だ?」


 レヴェルトはユーレンが急に連れてきた一行について聞く。


 「いや、この子たちが君に会いたいって言ってさ」


 「後にしろ。余は忙しい」


 レヴェルトは建造している建物の設計の見直しや、内政に追われていた。

 そして今は完全に客人の相手をする気がないため、鎧すら身に着けていない完全オフの格好だ。


 「いいの?」


 「ん?なぜだ?」


 レヴェルトはこんなにも自分の意を否定するユーレンが珍しいので、興味が湧き、聞き返す。


 「この子たちはいずれ君にとって大事な存在になるよ」


 (大事な存在?)


 リサはユーレンの言葉に疑問を持つ。

 なぜ私がこの王様の存在と関わりができるのか分からない。


 「ほう、いいだろう。かような賢者がこんなにも余に異を唱えるのは稀だ。聞くだけ聞こう」


 レヴェルトは階段下のリサを見る。

 こんな魔族が余の宝たる存在になるとは思わぬが、この者にはなぜか余の神威が効かぬ。故に余も興味が湧く。


 先程からレヴェルトの王の神威を浴びせてみているが、一向に跪く気配がない。

 それは、単に気力が自分を上回っているからか?否、この魔族の少女からはそんな気配はしない。ならば、他に自分と共通の繋がりがあるからかと思った。


 「どうした?余を前にして臆することは無いぞ。さぁ、言え」


 「あっ、はい!」


 リサはその王の出で立ちに見惚れていた。

 恋ではなく憧れとして、かっこいいと思っていた。いつか自分もこんな王になりたいと思うほどに。


 「私は元五帝王が一人魔王の娘です。父は五年前の魔王掃討大戦で戦死しました」


 「知っている。余は博識である。故にここの知識の吸収にも余念がない」

 

  魔王の娘たるリサは跪き懇願する。


 「どうか私に力をお貸しください。父の仇を取る助力をいただきたい。」


 「それで余に利はあるのか?無いなら手を貸す気はないぞ」


 「お待ちください!!」


 リサは必死で考える。

 どうすればこの人に協力してもらえるだろうか?

 考えても考えてもこの人の利益になることが思いつかない。

 もし失敗したら殺されるかもしれない。


 ──あぁ、どうしよう。涙が……


 恐怖で涙が溢れる。

 でもこうするしかない。


 「お願いします。どうか、どうか……」


 体でさえ差し出してもいいと思ったが、それはおそらくこの王にとっての侮辱になる。ならもう地に伏して頼み込むしかなかった。


 「チッ」


 レヴェルトは舌打ちをする。

 この娘のことは最初は気に入っていた。いつの世も復讐かと思ったが、親族に対する復讐は別だ。

 この者は己の欲で動いておらぬ。故に純粋な感情で動けていた。

 余はそういう感情こそが人間であると思っている。故に余を召喚した騎士にも力を貸した。

 だが……


 ──これだけは赦せぬ。


 「簡単に頭を垂れるな!」


 レヴェルトは突如怒号を上げた。まるで王たるものを教えるように。

 その言葉に驚いたのか、リサは堪えていた涙が零れ落ちるのを感じる。


 「仮にも王族であるのなら!簡単に頭を下げるな!まったくもって滑稽!舐められようとも致し方なし!」


 レヴェルトは復讐することに怒ることは無い。それが人間として当然であるならばだ。だが、王としては絶対に違う。


 「貴様がとるべきは威厳を余に示して見せることだ!威も無く、恥もない王族など、どんな愚君にも劣る阿呆と知れ!」


 その言葉を深く聞きながら、リサは大粒の涙を流す。

 最初から分かっていた。自分は国を引っ張れるほどの器では無いことに、でもどうすればよかったのだ。国の民を守るには、魔族を再興するには……


 「貴様が王になれ」


 レヴェルトがリサの心情を読んだかのように言う。

 実際、神眼によって心を見たのだが、王は言わずに続ける。


 「貴様が王になって魔族の国を再興してみせよ。

 そして余に見せよ!貴様が作りし世界を!そして貫いてみせよ!その王道を」


 「ですが、私にできるでしょうか?」


 リサは不安であった。今まで王としての職務など見てこなかった自分にできるのかと。


 「来い」


 レヴェルトはリサを外へ誘い出す。

 

 そして城壁から少し離れた場所、砂漠の真ん中あたりに連れてきた。


 

 「あの、レヴェルト様何を」


 「ここら辺でいいだろう」


 「え?」


 レヴェルトは少しだけ伸びをして体を柔す。


 「ここで余と戦ってみせよ!」


 

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