第19話 魔王の娘の龍種
魔王。
多くの悪魔を従えた元五帝王の一人。
九割が勇者で構成された連合軍に敗北するまでは、絶対的な力を持っていた。
その魔王にこんな逸話がある。
昔、その魔王が若かりし頃。魔王は一人の女。伝説の龍種、光の龍に恋をした。
その龍は最初こそ魔王を跳ね除けていたものの、その求愛に負け、婚姻を結んだ。
だが、一人の娘を産んだのち、龍は力尽き死んでしまう。
魔王は亡き妻の忘れ形見たる娘をそれはそれは大事に育て上げた。
連合に敗北し、死してもその娘は生きていると言われている。
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別世界の王のDifferent world 金彩の戦火
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「本当に行かれるのですか?」
魔族の一行。
それぞれが特徴的な角を有し。人間のような姿でありながら、漏れている魔力は桁違いの者である。
「ええ、行きます」
そう言って進むのは一人の少女。
黒髪で金色の角を持つ美しき者。
魔王の娘にして、神獣に並び数少ない龍種である存在。
名をリサ・レイ。
この娘は亡き父の仇をとるために、冒険者に追われながらも協力者を必死に探していた。
侍女の内の一人が問う。
「ですが、我々が王族に協力を求めるのは危険過ぎます。すぐに殺されるやもしれません」
「ですが、もうこれしかないのです。我が父の仇を討つためならば、私は……」
リサには頼る相手がいなかった。
過保護に育てられたため、他国との交流による有効など結んでいない。
そんな箱入り娘が頼るべきはどこか。
まだどことも交流を持っていない鎖国都市。そして今一番勢いに乗っている王。
そう、城壁都市ジノラバしかなかった。
「ですが、ジノラバの王は次期五帝王と噂されるほどの王です。姫様の願いを聞き入れてくれるかどうか」
「それでも行くしかないの。それしか、私たち魔族が生き残る術は無いのだから」
とは言っても心配なものは心配である。もし連合国に取り入るためにこの首を利用しようと考えていたら……
──間違いなく殺されるわね。
だが魔王の娘はジノラバへと続く砂漠を歩く。
「リリス」
「はい?」
「あなた気づかない?」
「何がでしょうか?」
「ここ砂漠よ。なのに暑くないの」
「確かにそうですね!」
本来砂漠であれば昼はものすごく暑いはず。なのに全然暑くないのだ。それどころか涼しい。
(どういうこと?確かゼラード王の地域の砂漠は地獄の暑さだったはず)
その疑問を抱えたまま歩き続けると、遠くに荘厳な城壁が見えた。
どういうこと?あれがこの地域で出来る国なの?ますますわからないくなった。
これは砂漠が見せる幻だとさえ思った。
なのに自分たちが歩き続けるほど、その黄金に輝く国が近づいてくる。
──なんて綺麗な国なの。
砂漠の真ん中であるはずなのに、木々が生え渡っており、水も豊かである。
そして何より、金色の黄金宮はとても気品があり、綺麗であった。
「おい、止まれ!」
城壁上の兵士に呼び止められる。
「貴様、ここへは何の用だ」
ここは正直に言うしかない。
必ず分かってくれると信じてリサは言う。
「ここの王様にお目通りを願いたくて来たの。お願い中に入れて」
「我が王に……お前はどこかの王族か何かか?」
「それは……」
別に王族であることは確かだけどそれは昔の話。今はただの放浪する魔族に過ぎず、なんて言えばいいか分からなかった。
「う~ん、王族でも無いのならちょっと難しいかもな」
兵士がそう言った時、一人の男性が近づいた。
「どうしたんだい?」
「なっ!これはユーレン様」
ユーレンと呼ばれた男の人に兵士の人が頭を下げる。
それなりに地位の高い人なのだろうか?とても綺麗な銀髪の男性。その人に私は懇願する。
「お願いです。どうかこの国の王に!」
「うん、いいよ」
「ふぇ?」
「だからいいよ」
即答だった。
もうちょっと考えられるかと思ったのに……
「ついておいで。こっちさ」
私は言われた通り城壁の門をくぐり、中へ入る。
「ありがとうございます。でも、どうして入れてくれたのですか?」
「ああ、僕は未来が見えてね。君はこの国にとって重要な人物になるって分かったからさ」
(千里眼!)
リサは心の中で驚いた。
千里眼。
一般的に言えば、遠くを見たりできる力だが。ここではそれだけでなく、過去や未来も見通せる目もそう呼ばれている。
大賢者クラスでないと手に入れられないその力をこの人は持っている。つまりはとてつもない魔術師であることを指していた。
(でも、重要な人物とはどういうことでしょう?)
少なくともこことは縁も所縁もない。
リサは周りを見渡す。
国の子供たちは楽しそうに笑って暮らしている。そして大人たちも笑顔で己の仕事などをこなしていた。
それを見てリサはこれが平和なのだろうなと思う。
誰もが傷つかず、笑い合い、楽しく一日を過ごす。ああ、こんな場所に住んでみたいものだなと思った。
「ほら、ここが王宮だよ」
「すごい」
大きな宮殿、とても綺麗な装飾。
どんな国でも敵うことが無いと思うほどだった。
「さぁ、王の間に行くよ」
またユーレンさんが案内してくれる。まるで紹介するみたいに。
とっても長い階段を上がっていき、王宮の中に入る。
そこではいろんな人が走りながら作業をしていた。
私は思う。
街の人たちの笑顔を支えているのはこの人たちなのだろうなと。
しばらくまっすぐ進んで行く。
途中の中庭は中心に大きな木があり、そして周りに池、その上にはスイレンの花が咲いていた。
「綺麗」
思わずそう呟く。
ここは神様が住む場所なのではないかと錯覚した。
そうしてしばらく歩くと、大きな扉が現れる。
「この中さ」
「ここが……」
金色の重厚な扉。
まさに王のいる場所といった雰囲気であった。
使用人によって扉が開けられる。
「やぁ、レヴェルト」
「ユーレンか。ん?そ奴らは誰だ」
黒衣に身を包む割とラフな格好、紅桔梗色の髪に金色の瞳の男性であった。
まるで神様のようなオーラを持つ王様。それが、私の探していたレヴェルト王だった。
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