第14話 天から降る神々の一撃《ルクスプルヴィア》
ゼラード王領地──
ここでは使者からの報告を聞いている最中であった。
「それで、向こうは何と言ったんじゃ!」
シュバルツインが多くの家臣たちの前でレヴェルトの返事を聞かせる。
「あくまでも従う気は無く!徹底抗戦の構えであると」
城内に嘲笑の声が聞こえる。
「しかも、戦うは己一人で十分と!」
さらに城内は笑いで溢れた。
「なんとも馬鹿なものだ。
大方、どこぞの輩があの美しき国を召喚したのであろうがな。国主が馬鹿では宝の持ち腐れだな」
城内はもう手に入れたような気分で酒やらなんやらで宴のような雰囲気であった。
そんな中でもシュバルツインはどこか自分の中に刺さった違和感に戸惑いを隠せないでいた。
見ているだけで倒れそうになるほどの覇気。
一度5帝王を見たことがあるが、あれに近いものを感じた。
果たして無策で挑んでくるであろうか?否、そんなことは絶対にないだろう。
ではどうやって……
己の戸惑いなど知る由もなく、城内の家臣や王は酒や運ばれる豚やデザートなどの食事を堪能していた。
(このままでは、何か私にも……)
シュバルツインは何か心の中で決心した。
夜も更け、城内はこれから来る敵に備えて、軍備を徹底していた。
この王も馬鹿ではない。
今まで幾たびの戦争をしてきた国家なだけあって、どこから来ようと大丈夫な布陣。
ここは敵の城である。
城壁上には魔力弾を放つ砲門が何門も並び、魔術部隊、騎兵、弓兵などがそれぞれの持ち場についている。
シュバルツインも城壁外、門の前で迎え撃つ部隊の一人であった。そこで一人の兵士と会話をしている。
「シュバルツイン様!こちらも軍の配備は完了しました」
「レナード、貴様もあの王を見たであろう」
「はい」
「陛下の言うように馬鹿な男であったと思うか?」
レナードと言われた兵士は少し黙った後、口を開く。
「恐れながら、まったくそのように思いませんでした。
彼の王は反論を良しとしない凄みがあり、あれは並みの王の器では無いように感じました」
「そうか……」
シュバルツインはしばらく黙っていた。
何かを決めかねているように──
「将軍閣下、あなたの今考えていることはわかります。
周りも他の家臣の方はおりません。であれば、今がその好機かと!」
その言葉にシュバルツインは背中を押された。
今まで迷っていたことに終止符を打つ。
「うむ」
シュバルツインは後ろを振り向き、自分の兵士に呼びかけた。
「これより!私は王を見限り!レヴェルト王につく!
今が好機であり!王の首を取っ……」
シュバルツインの動きが止まった。
──馬鹿な。
兵たちの後ろには、あの紫の髪、金色の目、白いマント。
昼会った時と違うのは前髪が上げられ、黄金の鎧を身に着けていたことだろうか。
「ほう。貴様はそう言うと思っていたぞ」
「レヴェルト王!?いつの間に!」
「余に不可能はなし!!
余の目は余に向けられる心意を自分の意志で読むことができる。
故に貴様が迷っていることはわかっていた」
シュバルツインは瞬時に跪く。それに続き兵たちも跪いた。
「改めて我らを王の軍門に加えていただきたく存じます」
「よかろう!余は光の神であり、余は寛大である。
故にこそ、貴様を我が軍と認め、我が民と認めよう」
「はっ!ありがたき幸せ!」
「だがな、余計な真似はしなくてよいぞ。
先程も見たが、あのような豚など余一人で十分だ」
「しかし!」
「くどい!二度は言わぬ。
確かに、傍から見れば余のしていることは己の命を顧みない愚行である!だが余は神王である!故に人間の尺度で測るでない」
シュバルツインには、何を言っているのか分からなかったが、それは己の未熟さ故のことであろう。なにより、この男には信用に足る凄みがあった。ならば、その意向に従うまで。
「は!わかりました」
「うむ、余がこの国もろとも滅ぼすまで30分の猶予を与えよう。
その間に貴様らの妻や子を救い出すが良い!」
「は!仰せのままに!」
シュバルツインはすぐに兵たちにそう伝える。
陣は城壁外のなので、門を守る我らには一切気づくことは無い。
「では余は貴様らの元王に余自ら直接挨拶してやろう!シュバルツイン!仔細は任せるぞ」
「は!お気を付けくださいませ」
そう言うとレヴェルト王の周りに金色の光の粒が出てきたかと思うと、周りを包みその姿はきれいさっぱり消えてしまった。
「なっ!後光隠蔽!!」
この世を統べる者に最も近いとされる者にしかできぬ、侵入スキル。
本当に愚かな王であれば、このスキルを持つことは絶対に出来ない。
そのスキル見た瞬間に自分のした選択は間違いではないと、シュバルツインは思えた。そして兵も納得したであろうと思うこともできた。
ゼラード領城内、王の間──
ここでゼラード王がほくそ笑みながら座っていた。
「これで我が領地も潤う。そうだな、向こうの国に美しい女でもおれば、味わうのも悪くない。」
ゼラード王がそのようなことを考えていると、どこからか声が聞こえてきた。
『ほう、我が領地の娘共を喰らうと、これから死ぬ者が語るには、いささか大きすぎやしないか?』
ゼラード王は立ち上がり、近くにある剣を手に取る。
「何者だ!姿を現せ!」
この呼びかけには応じない。
『これほどまでの軍を揃えるとは……
ハハッ、貴様!豚にしては、随分と余を興じさせるではないか!』
笑い声が不気味に響く。
ゼラード王が周りを見渡しても、どこにも姿がない。
「おのれ!城の守りはどうなっている!曲者だ!誰かおらぬのか!」
ゼラード王が呼びかけるが、返事がない。
『いくら呼びかけようとも来ることは無いぞ。貴様よりも先に黄泉への旅路についたからな』
ゼラード王に冷や汗がにじみ出る。
「儂をどうするつもりだ!殺すのか!」
『さぁな』
すると目の前にホタルのように輝く光の粒が漂い、徐々に集まっていった。
そしてその光が集合して人の形を作り、目の前に黄金の鎧を身に纏い、紅桔梗色の髪に金色の瞳の男が微笑み、堂々と玉座に座っていた。
「そうか、貴様が黄金の国の王か!」
黄金の王は肘をつき、足を組んでゼラード王に話しかける。
「安心しろ今は殺さん。少しだけ貴様に聞いておきたいことがあってな」
「聞きたいことだと?」
「だがその前に……」
王は一瞬目をぎらつかせると少し低く言う。
「王の前に頭を垂れよ。不敬であろう」
「なっ!馬鹿な!なぜ!」
ゼラード王はなぜか跪いていた。
「ふはっ、ふははははは!やはりか……
王の神威!
これは余よりも遥かに格下とみなされれば、絶対に頭を垂れなければならない。
過去にも何人かこれに耐える者は居たが……
この程度の神威にも耐えられないとは、貴様の器が知れるというもの!」
「おのれぇ!」
起き上がろうと体に力を入れるがピクリとも動かない。
「余が貴様に問うことはただ一つ!
なぜあの女は木に吊るされていた?発言を赦す。申してみせよ!」
黄金の王はゼラード王に近づき耳元で囁く。
「なるほど、剣聖の死体を持ち去ったのは貴様か!」
一週間ほど前に気に磔にした女が盗み出されていた。
儂は捨て置けと言ったが……
この男の仕業であったか!
「あの者は儂が召喚した勇者の妻だったものだ!勇者が余の命令に歯向かったのでな、凌辱して腹を裂いた後に吊るしてやったわ!!」
ゼラード王は気持ち悪い笑みを浮かべながら叫ぶ。
「そしたらあの勇者は怒り狂ってな!幾らか余の兵を斬り殺したが、最終的にズタズタにされ逃げて行ったわ!!ぐはっ!」
しばらく黄金の王は聞いていたが。ゼラードの顔面を踏みつける。
「余が聞いたのは女が死んだ理由である!そこまでの発言は赦しておらぬぞ」
「ぐっ、おのれー!」
「それに余はそんなことを聞かされたところでなんとも思っておらぬ。
余の民であればまだしも!他の者など!心底どうでもいい」
冷気に当てられているような冷たい言葉に体が委縮しながらも、踏みつけられているゼラードは黄金の王を睨みつける。
「なぁに、これはただの挨拶だ。今貴様を殺すのは簡単だが、それでは面白くない」
そう言ってゼラードから離れ、窓を開ける。そこには未だに待機している軍隊の姿があった。
「こんなにも大舞台を整えられたのだ。貴様も含め醜いこの国の者共全員に、余自ら絶望を与えねばな」
そう言って黄金の王はゼラードに顔を向ける。
「何をするつもりだ!」
「なに、これから始まる黄泉への旅路のただの号令だ」
するとまた光の粒が集まり、黄金の王を包むと一瞬で消え去った。そして声だけが響く。
『おっとそうであった、貴様の将軍は裏切ったぞ』
「シュバルツインが!おのれー!そう言えば奴は勇者を殺すときも反対していた。 やはり一緒に……」
『ふっ、ではな』
すると体の硬直が解け動けるようになった。
ゼラードはこのことを伝えるべく、急いで城内の階段を下りる。
「早く兵を呼ばねば!」
城内は血の匂いで満ち、兵だけでなく、使用人の女まで皆殺しにされていた。
血は壁に飛び散り、その表情は悲痛に満ちたものだった。
「くそー!許さぬぞ!」
城の外へ出ると、何かがおかしい?民や兵が上をジッと見つめていた。
(なんだこれは?夜空がいつもより明るく感じる)
そう思い、上を見上げると、曇りの空が光を発していた。
(なんだ?月か?)
そうしてその明かりは徐々に増していき、その光は眩しさを覚えるほどであった。そしてその雲から姿を現したのは……
──船?
光り輝く船であった。
それは普通の一般的なガレー船の形で、側面に大きなオールがついている。
そして何より金色に輝いていた。
一方そのころ、船の上にはシュバルツインと兵たち、そしてレヴェルト王が乗っていた。
空から見下ろす様はまるで天より罰を与える神が如し。
王は光と共に在り、王はその力と共に在った。
「シュバルツイン!」
「はっ!」
「この国に未練はあるか?」
「ないと言えば嘘になります。ですが王の意向のままに私どもは従うまで!」
「そうか」
カエルム・ナービス。
余の威の具現にして、国の宝物。
この光を地に放つのは実に何年振りか。
光を放つ前に問おう。
この国は余が統べるに値する国か?
答えは否だ。王ならず民までも醜きこの国に、余は絶望している。
ならば零に戻すまで。
この国に余自ら罰を与えよう。
罰。つまり死。
王の怒りは頂点に達していた。
そして王は手を広げ高らかに言う。
「すべての人間よ!我が栄光を見よ!我が神となりし王の神威を見よ!
余が統べる為にあらゆるものを焼き尽くす光よ!この者達の命を持って今幸福が与えられん!!」
船はその光を増す。
──すべての森羅万象は我が中心にあり!
「ルクスプルヴィア!!」
王がそう言うと、その光は下へ真っすぐ放出された。
その様はまるで世界の終わりを告げる彗星のようであった。
光は街や人含めすべての者を燃やし尽くした。
悲鳴すら与えることは無く消えていく。
そして光は広がり城壁の外にいる兵士まで、灰すら無く焼き尽くす。
その光を浴びながら、ゼラード王は一人思う。
──またしても……我が野望は……つい……え……
光は三十分ほど放出し続けられ、人も建物も何一つ残らなかった。
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