第11話 魔術 大地

 大地の王。

 

 貴方は勇猛な王。

 貴方の夢に魅せられて兵はその荒野を駆け抜ける。

 王に従い集う同胞。

 彼らはその王と一緒に敵を薙ぎ払う。

 

 そう──


 私は貴方と一緒に。

 貴方と共に在る。

 たくさんの王に道を示す私のあなた。

 

 神獣ユニコーンと一緒に。


 ──貴方は舞い戻ってくる。


                  ⚔


              別世界の王のDifferent world 金彩の戦火


                  ⚔


 最大魔法がぶつかる少し前のレグラスの丘──


 ここは未だに聖剣の王と炎帝との戦が絶えなかった。

 かなりの死者も出している。

 双方その被害は甚大なものになっていた。

 そしてその戦いの動向を見つめるものが二人。


 「此度の喧嘩。両者ずいぶんと損害を出すであろうな」


 一人はかなり分厚い大鎧を纏い、茶髪に顎鬚。身長は2メートルを超すであろう大男だった。


 「どうだ魔術王!

 ここは我らが止めに入り、この大喧嘩を止めるというのは!!」


 大男は隣でその戦いを退屈そうに見つめるアラビア衣装を着た男に話しかける。


 「ふん!くだらん。

 この我がなぜ蟲共の喧嘩を止めねばならんのだ」


 そう言ったのはゼラードとの回想で猛威を振るった魔術王ガナルゼラシュである。


 「そもそも大地の王よ。

 あ奴らが殺しあうのであればこちらとしては良きことではないか。

 世界を己で統べることを企むお前がそこまでしてなぜ奴らにこだわる。

 理由を述べよ」


 「うーん、そうさなぁ……」


 魔術王の隣でマントをなびかせながら立つ大男は5帝王が一人、大地の王グランドロスであった。その男は顎に手をやりながら考え、しばらくすると口を開いた。


 「いやなぁ、余は惜しいのだ。

 これほどの腕を持つ者が死んでいくのは!

 それならば!余の臣下として!ぜひとも召し抱えたいと思うてな」


 それを聞くと魔術王は飲んでいた酒を吹き出し、大笑いをした。


 「ふはははははは!はっはっははっはぶっ!ははははは!」


 まるでその答えを期待していたかのように魔術王は笑う。


 「ガハハハッ!どうした?余の言葉がツボにでも入ったか!!」


 魔術王はしばらく笑っているとゆっくり口を開いた。


 「はっくっくっくくくふ!

 はぁー、この我の笑いのツボに土足で堂々と入ってくるとは……

 貴様!なかなかにやるではないか。

 だがな大地の王、あれはそうそう人の下につくような器ではあるまい。それにそれだけでは我は動かぬぞ」


 「そうかぁ?

 だがな!余は貴様も臣下に加えるつもりだから覚悟をしておけよ!

 それに貴様の収集品!それも余が奪いつくすつもりだ!そして魔術部隊を作り! 余はこの世界を統べるものとなろうぞ!」


 それを聞くと、魔術王はその虹色の瞳をぎらつかせ、口角を上げ言った。


 「ふーむ……よかろう。

 この我を打ち負かすことができたのなら、我は貴様の下につき、我がコレクションも献上してやろう。

 まっ、到底できるとは思えんがな。」


 「ガハハハハ!言ったな魔術王!その言葉、再び相まみえるまで忘れるでないぞ!」


 「ふん!たとえ蟻が何匹集まろうと、龍には焼き尽くされるのみと知れ。」


 そう言って大地の王と魔術王は盃を当て乾杯をし、一気に喉に流し込んだ。


 「ぷはぁー!これは凄まじい美酒ではないか!これはいったいどこの物だ魔術王!」


 「ふっ、我が領地の酒だ。気に入ったのなら貴様に与えても良い」


 「ガハハハ!

 この世界で最も多い宝を手にしていると言われているお前でさえ酒は自領の物なのであるのか」


 それを聞くと、魔術王はムッとした表情で言う。


 「戯けめ!

 どのようなものであれ、我が領地で作られた物や人であればすべて我が宝物よ。

 我が宝石の数々など魔杖の収集で見つかった副産物よ」


 「ガハハハ!

 なるほど!貴様の宝は宝石の数々では無く!貴様の民や特産であると!」


 「無論だ」


 「いい!それもまたいい!

 余はますます気に入ったぞ!」


 そう言って大地の王グランドロスは酒を喉に流し込む。

 その味は極上であり、朋友と飲む酒は実に気分のいいものであった。


 「ところで大地の王。

 貴様には我の妻の妹、つまり貴様の娘がいたな。そ奴は息災であるか?」


 「ああ!フェリスのことか?

 うむ!とても元気であるぞ!おそらくどの娘たちよりも美しく育ったであろう!

 どうした?欲しいのか!!」


 「戯け!

 我が寵愛を受けるはセラスのみ、つまりは側室などいらぬ。」


 魔術王は大地の王との一時的な同盟の証として、大地の王から妻を娶っていた。

 夫婦仲も良く。大陸一のおしどり夫婦と呼ばれるほど、魔術王は妻を溺愛していた。


 「ふむ、魔術王に余の娘をそこまで言ってもらえるとは、なかなか悪い気はせんものだ!

 だが女はいいぞ!やはり欲を満たすは愛する者よ」


 「それは認めよう。

 まったく、なぜ貴様からあのような美しき者が生まれるのか分からんな。

 ふむ、決めたぞ。貴様が我が義父であるなら、貴様は我が自ら殺してやろう」


 魔術王は心の中に決める。


 我が大地の王よりも年は上であるものの、一応は我が義父。

 ならば──

 我が自らその王道に引導をくれてやるのは必定。


 グランドロスはそんな魔術王の言葉を気にも留めない。


 「ガハハハ!たぶん妻が良いのであろう。

 だが魔術王、なぜ貴様はフェリスのことを気にかけておるのだ?」

 

 話だけ聞いたことがあるだけで、花の乙女フェリスと魔術王との面識はない。

 なぜ気にするのかは不可解であった。


 「我が妻の妹であるならば、それは我が妹と言っても良い!

 大地の王!貴様の娘を嫁に出す際は我に一つ伝えるがいい。我自らその者の力量と 器を見てやろう」


 ──なんだ。そういうことであったか。

 

 よほど自分の妻が大事なのか、その妹にも気を配る。

 それはもはや実の父であるグランドロスよりも親バカであった。


 「ガハハハハ!

 無論!余もどこぞの馬鹿者に可愛い娘をやるつもりなど毛頭ない!

 余が最愛の娘をくれてやるは余の気に入った王たる器を持つ者のみである!!」


 そのようなことを話していると、丘の向こうから舞う炎と光の柱が見えた。


 「大地の王よ、止めんで良いのか?

 そろそろ決着をつけるつもりのようだが」


 「おっ!これはいかんいかん!!

 魔術王!どうするのだ?協力するのかしないのか!」


 魔術王は面白そうに笑い。口を開く。


 「ふん、よかろう!

 此度だけだ。我が収集品を特別に披露してやろう」


 「よし決まった!

 風よ舞え!駆け抜けよ我が愛馬!!」


 そう言って大地の王は天を切り裂く。

 すると天からの落雷が地へと落ち、その傷跡になんとも美しい黒色の神獣。ユニコーンが姿を見せる。

 そうして大地の王は地に土煙を上げて駆け抜けて行ったのだった。

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