第7話 演説
東の砂漠地帯──
ここは昨日レヴェルトが召喚した国ジノラバである。
「レヴェルト様おかえりなさいませ」
「うむ、出迎えご苦労」
昨日の夜、天を翔ける船「カエルム・ナーヴィス」で飛行していたレヴェルト王が自らの領地に戻ってきたところであった。
「ところでレヴェルト様?
肩に担がれているその亡骸はどうされたのですか?」
レヴェルトは裸の死体を肩に担ぎ、船を降りてきていたのだ。
急いで従者がレヴェルトの肩から降ろす。
「こ奴は昨日余を召喚した不届き者の妻とやらだ。
余はこ奴のために動くのだからな。せめて夫婦共々一緒に眠らせてやるがよい」
「わかりました。
仰せのままにいたします。ところでレヴェルト様」
「む?なんだ申してみよ」
「住民を広場に集めました。いつでも我が民衆に王のお言葉をお伝え出来ます」
「うむ!すぐに始めよう。
フロース!お前も壇上で聞くがよい」
集まった市民はおよそ数十万。
ジノラバの民たちは王の登場を今か今かと待っていた。
そして王宮の階段上に王が現れると一斉に歓声が上がる。
「うおおおおおおお!」
「我らが王!!」
「光の神王!」
叫びが上がる中、王は片腕を天に掲げ静まらせる。すると一瞬の内に場は静寂に包まれた。
そして王は両手を広げ声を張り民へ呼びかける。
「余はレヴェルト!光であり、神であり、王である!
ジノラバの民に告げる!!此度お前たちを集めたのは他でもない。今の現状とこれ からについて話すことである!
昨今のジノラバを包んだ光それはこの世界に召喚されたときに現れた光である!この召喚により、今までの諸外国との交流で職を得ていた者、壁外で作農に勤しんでいた者、帰る家を失ったものには大きな損失となったであろう。
余が約束しよう!
そのような者達には我が王宮の宝物庫を50年ぶりに開け、何不自由ない生活を送らせると!」
民たちが大きくざわつく。
王宮の宝物庫が開かれるときは大きな戦争が起こった時のみであったからである。
「まさにジノラバは幸福な都である!
そのために今までいくつもの国がこの国を奪い取ろうと軍を進めてきた!我らはその戦いに幾たびも勝利してきた!!
我らはいつも自分たちの幸福のため!これから生まれる子のために!明日を生き抜くために勝利してきた!
此度この異世界に現れた富んだ国を狙う者は大勢いよう!
だが恐れることは無い!我らがすることは何ら変わらん!この国を取ろうものならば取ってみるがいい!我らは抗い、戦い抜く!もちろん国の宝である天の船も惜しむことは無い!今一度言おう!我らが負けることは無い!
我らが輝かせる光はこの訳の分からん世界でさえも照らすことができるであろう!」
レヴェルトはいっそう声を張り上げ、民に告げる。
「心せよ我が勇者達よ!
その命余に預けよ!
この世界に我らありと知らしめるために!!」
「うおおおおおおおお!」
「我らが王!!」
国中が団結したように感じた。
王の言葉に皆が耳を傾け、誰一人目をそらすことは無かった。
かつてのジノラバでこんなことがあったであろうか?
皆これからの困難でも立ち向かえるという希望が芽生えていた。
王が王宮に戻ろうとしたとき王宮の端から銀髪の青年が出てくる。
「先ほどの演説、とても素晴らしいね」
「ユーレンか」
「君にこの国の状況を監視するように言われてたから、魔力をたくさん使って疲れたよ」
「赦せ。今茶でも持って来させる」
「いや、いいよこのままで。
今日は君に動きがあったことと王様の顔の絵を持ってきたんだ」
「ふっ、その絵はお前の霊装に描かせたのか?」
「ああ。
割とうまいと思うよ」
ユーレンは数多の幽霊を従えた霊装を有している。
それは索敵に優れ、攻撃にも優れた万能の霊装であった。
レヴェルトはユーレンから絵を受け取る。
「敵の状況は」
「だいたいは王城で武器を蓄えているような感じだね。
あと兵も集まっているけどそんなに数はいないみたいだね」
「そうか」
「まぁ、君よりここの世界を駆け巡らせてみたけど、ここの人間はそんなにレベルは高くないよ。君の天を翔ける船だけで倒せるぐらいには」
「だが油断はできん。前の世界でもそうであったであろう」
前の世界。つまりは召喚される前の世界。
さほど強き者はいなかったが、稀に余と並び立つ存在が生まれる。この世界もそうである可能性が高い。
「そうだね」
「ご苦労であった。しばらく休め」
「そうさせてもらうよ。
ああ、あともう一つ」
「ん?どうした」
ユーレンが外を見ている。
まるで、見えているぞと言わんばかりに……
「今、僕の霊装がこちらを凝視している一団を発見したよ」
どうやら曲者を見つけたらしいが、特にレヴェルトは気にした様子はない。
「捨ておけ。どうせ何もできまい。何かしてくるのであれば我がカエルムナーヴィスの一撃で蒸散せしものとなるであろう」
「そう?まっ、君がいいならいいよ」
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