第6話 聖剣の王 強欲の王

 聖剣の王。


 幸福、平和を願い。

 人々の救済を天へと願った。

 その聖剣の輝きは、数多の騎士の光となる。

 王国の受理。

 聖域の再興。

 世に今一度の救済を。


 ええ、そう──


 あなたは辿りつかねばならない。

 最果ての楽園へ。

 この世すべての導きによって。

 

 その聖剣の輝きは、道を示す。

 巨悪をその輝きで焼きつぶす。


 白金の鎧を纏いながら現れるその時を。

 

 ──私は待っている


                 ⚔

   

             別世界の王のDifferent world 金彩の戦火

                   

                 ⚔


 ブリザード王国、聖都──


 数多の世界を救った聖騎士たちの城。

 それは御伽噺に出てきそうな、朝焼けに映える白と青の美しい城だった。

 街に深く根ざし、見守るように聳え立っている。

 

 ブリザード国。

 この王国の名前だ。

 初代の王が聖剣を引き抜いて以来、歴代の王はその聖剣に選ばれた者が王となった。現国王もそうやって王になった者である。だが一つ違うことは、彼はその聖剣だけに選ばれたわけでは無いということだ。この国に忠誠を誓うすべての聖騎士達が持つすべての聖剣に選ばれた唯一無二の存在。


 そして彼が持つのは歴代の王が持つ聖剣ではない。

 それは彼自身が王でも何でもない時代に掴み取った最強の聖剣であった。

 まさに王の剣と呼ぶにふさわしい剣──

 

 彼は窓から朝の景色を見る。

 街の建物はどれも美しい白と青で出来ていた。その色は陽光を反射し美しく輝く。

 

 ──ふっ。

 

 真っ白い髪にエメラルドのような緑の目。服の上からでもわかる引き締まった肉体。

 

 「すまない。遅くなった」


 男は王城の評定の間に訪れる。

 そこには7人の聖騎士が横一列にならんで跪いている。

 

 「我が王も良いお目覚めで何よりです。」

 

 金髪の髪の騎士が男に言う。

 その顔は美男子というに相応しい騎士であり、王に対する忠義も本物であった。

 そしてその騎士に言われた先程の男はこの国の王であった。


 「ありがとうギャリエル卿」


 「はっ!」


 ギャリエルと呼ばれた騎士は胸に手を当て深々と頭を下げる。

 

 「では諸外国に動きは?」


 王が騎士たちに質問をする。

 これが朝の日課だ。

 気になること、外国の動きを報告し合う。それがこの城の朝の評定。

 

 「やはり、インフェルノ帝国が動きを見せているとのことです。そろそろ、御覚悟をお決めになられた方がよろしいかと」


 今度は紫の鎧を着た騎士が話しかける。

 彼はラリュスト卿。聖騎士最強にして、この世に斬れぬものは無い聖剣を持つ信頼に足る騎士だ。

 

 王は少し考える。

 ここ最近、和平を交わしていた帝国がこちらに攻め込もうとする動きがある。


 ──今はお互い睨み合った状態だが、やはりどこか腑に落ちない。

 帝国の皇帝は欲を持つものの、理由もなしに攻め込もうとするお人ではない。

 それに彼とは面識がある。

 

 王ははその男を友人とさへ思っていた。

 

 だが──

 

 この国に害をなすのであれば、ただではおかない。


 「出陣する。私の鎧を持て」


 王はその青い外套を翻す。

 騎士たちはその後ろをついて行く。

 

 ──そう。


 私はブリザード国が王にして、五帝王が一人。

 聖剣の王、キャスト・ブリザードなのだから。

 


                 ⚔

 


 ゼラード王領地──


 ここは軍事国家である。そしてレヴェルトを召喚した騎士に深手を負わせた王の領地であった。

 税のほとんどが軍備へ使われる。そのため民は極貧の生活を余儀なくされていた。

 だが戦には1度しか負けておらず、賠償金や略奪品によりなんとか支えられていた。

 国民も戦争に負けたことがなく、それなりに結果を残していたので文句は言えなかった。

 だが、この領地を治める強欲の王ゼラードは愚かな真似をした。

 

 魔王掃討大戦──

 

 各国が力を合わせ、大量の勇者を召喚し、5帝王の一人である魔王と戦った。

 ゼラード王の国も勇者召喚に手を貸した一人である。

 戦いは苛烈を極め、地形が変わるほどの大戦であった。

 最後は魔王が死する前に大魔法を放ち消えていったが、死体は回収されていない。

 多くの者が犠牲を出した中、ゼラード王は王のいない諸外国へ攻め入ろうとした。

 連合に所属しておきながら連合の国へと攻め上った。

 確実な勝利。

 だが、何故か結果は敗北に終わり、諸外国に経済的制裁を加えられたため、国自体が成り立たなくなっていた。

 王はこの話を語ろうとしない。

 そのため、民の不満は大きくなっていた。

 だが、王は民に見向きもしない。

 いずれ来るであろうチャンスをじっと待っていた。


 「王!大変です!!」


 一人の男がゼラード王に報告に来ると王は3人の女性と行為に及んでいた。

 女たちはただされるがまま受け入れている。


 「ん?儂の楽しみを邪魔するほど大切な要件か。

 そうでなければシュバルツイン。貴様の首から上がなくなることになるぞ」


 ゼラードは楽しみを邪魔され、少し苛立ちを募らせる。


 「大変申し訳ございません」


 シュバルツインと呼ばれた男は匂い立ち込める部屋に跪き、話を続ける。

 

 「しかしこれはかなりの重大事項でございます。我が国の領地の半分が、一夜の内に占領されました」


 「なんだと!」


 その言葉を聞いたゼラードは驚き、行為中であったのにも関わらず、女を突き飛ばし、怒号を上げた。


 「どういうことだ!近隣諸国にそんな動きはなかったであろう!!」


 驚異の一語に尽きる。


我が国が弱小へと成り下がったことを良いことに攻め入ってきたのか?否、我が国ながらここにはそれほどの価値はない。

 領地の大半は砂漠。故に欲っしようと思えるものなど何もない。


 ゼラード王は考える。

 今まで攻められているという報告も無く、価値のないこの国に攻めようなどという愚かな王など居るはずがないことに。

 だが、その考えはシュバルツインの次の一言で消え去った。


 「はい!ただそれだけではございません。占領された領地はすでに国ができておりました」


 ──なんだと!

 

 王は驚く。

 一夜にして作られた国。

 それはゼラードの興味をそそる内容であった。

 彼は強欲である。

 ならば、奪えるものは奪いたい。そう考えるのが普通であった。

 シュバルツインが続ける。


 「しかも近隣住民の話では夜でも明るく、かろうじて見える建物は黄金に輝いていて、それはそれは美しい国だそうです」


 ゼラード王は顔に笑みを浮かべた。

 今まで国民の反乱が無かったのは戦争に必ず勝つ。その積み重ねによるものだった。

 だが、負けた今ではそれも抑えきれなくなっている。なんとしても逆転の一手が欲しかった。


 その国を奪えば、儂は──


 その考えが脳裏に浮かぶ。

 そして、先程の驚きはその国を一度見てみたいという衝動に変わっていた。


 「その国を儂自ら見てみたい!

 シュバルツイン、兵を用意しろ!!出発するぞ!」


 「はっ!」


 ゼラード王は服を着て部屋を出ていき、急いで武具を着て馬に乗り城を出た。


 ──見ておれ。儂を卑下した者共。

 儂は再び元の地位に返り咲いて見せるぞ。今儂の前に現れた打開の一手を見事手に入れてな。

 

 王は走り抜ける。目の前に現れた宝を求めて。



 そんな中大通りではとあることが起きていた。

 なんと広場の真ん中に裸にされ、腹を裂かれ、磔にされていた勇者の妻、剣聖レイナの死体が消えていたのである。

 街は、血だけを残して何もなくなった木について話す住民の声で騒がしくなっていた。


 「誰がやったんだ?」


 「ありがたや。ありがたや」


 「ちょうどよかった。臭くてかなわなかったんだよ」


 街の人々は勇者やレイナに食べ物や衣類を分けてもらっていたため感謝こそすれど、助けようとはしなかった。

 

 当たり前である。

 人間である以上力ある者に逆らうというのがどれほど大変なことか……

 だがそれができる者を勇者と呼ぶ。

 それが出来ぬ者を弱者と呼ぶ。

 そんな中、磔にされていた死体を奪う者がいたのである。

 住人は驚きと蔑み、喜びと様々な声を上げていた。


 

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