第4話 家臣達

 東の砂漠、ジノラバの地にて──


 王の号令と共に家臣たちはそれぞれ王宮の最深部へと向かっていく。

 その様子を王は見た後、召喚されしジノラバの地を見下ろす。


 太陽無き闇夜にて、これほど荘厳で美しい国は、どの世界、どの国であろうとあることは無い。

 それは余を含めた歴代の王が積み上げた偉業であり、その象徴たる街であろう。

 

 王のところに、家臣たちの中から一人の老人がその隙間を縫い出てきた。


 「爺!よくぞ来た!状況が変わったため全員王の間に召集した。お前も来い!!」


 その老人の名はサーヴェイ。

 レヴェルトの父の代から仕える臣下であり、レヴェルトの教育係である。

 幼いころからともに世界を見てきた存在であり、親のようにも思っている存在である。


 「儂と話している途中に消えるのですから心臓に悪うございます。フロース様も心配しておられました」


 「赦せ!だが、西南の情勢は気にしなくてよい!もはや関係なくなったからな」


 「なんと!では、それも王が話すことと関係がございますのかな?」


 「そうだ!ここはもうジノラバの地では無くなった。

 故にこそ、これからのことを熟考せねばならぬ。」


 「レヴェルト様!」


 後ろからフロースが追いかけて来ていた。

 どうやら、あの騎士の遺体を安置し、ここに戻ったらしい。


 レヴェルトはフロースに命令をする。


 「フロース!お前も王の間に来い!家臣全てをそこに召集している。

 そして余が来るまでの間、取りまとめを赦す」


 「はい!仰せのままに!」


 そう言ってフロースは王の間に急いで向かう。

  

 「爺!お前には最初に話しておく。実はだな……」


 レヴェルトはサーヴェイに事の仔細を話した。


 「なんと!まさかそのようなことになっていようとは!」


 「うむ、まったく迷惑なことよ。

 これゆえにどれ程の影響が出るかわかっておらぬ愚か者め!またあの騎士に腹が立ってきたわ!」

 

 そんな王の怒りをサーヴェイは冷静に抑える。


 「どうか怒りをお収めください王よ。では先程国を包み込んだ光も……」


 レヴェルトは一瞬湧き出た苛立ちをしまい、サーヴェイの問いに答える。


 「余がお前たちを呼んだ故に出た光だ。聞けずに呼んだことを赦せ」


 異世界からの勇者召喚においては3人ほどの生贄で呼ばれることが多い。

 そしてこの召喚方法は、生贄の質でも召喚される者の力量が違ってくる。例えば勇者のような、高水準の人間であれば、それ以上の存在が呼び出される。

 つまり、レヴェルトの魔力少しであれば、国一つ召喚することなど容易いことだったのである。


 だが、国を呼ぶということは、国外との交流で職を得ていた者にとっては、また迷惑なことである。そのため、レヴェルトもそのことが心残りであった。

 それを察したのか、サーヴェイは言う。


 「大丈夫でしょう。レヴェルト様がこれまでやってくださったことに比べればこのようなことは些細なこと。それに、レヴェルト王がいなければこの国はすぐに滅んでしまうでしょう。領民も納得してくださいます」


 「そうかお前が言うのであればそうなのであろう。

 領民には明日仔細を壇上にて話す! 後でフロースに領民に伝えるように言うがよい!

 さてそろそろ集まったころであろう」


 そう言って扉の前に近づくと使用人によって扉が開かれた。

 重々しい金の扉はゆっくりと開き、レヴェルトは中に入っていった。

 中には家臣たちが平伏し跪く。

 そして光り輝く王は両側で跪く家臣の中央を歩き玉座への階段を上る。

 そして玉座の横には先程まで約50人もの家臣を取りまとめていたであろうフロースが跪いていた。


 「大義であるフロース。お前にはあとで褒美をやろう」


 「はい!ありがたきお言葉です!」


 フロースにそう言うと王は玉座に座り、王に集中している家臣団に第一声を発した。


 「楽にすることを赦す!」


 そう言うと家臣はひざまずいた状態から用意された椅子に座った。


 「まずは事の顛末を話す!余やお前たちはこの世界に召喚された!つまりはここはもう我らのいたジノラバの大地ではない」


 王の間にいる家臣がざわつく。

 突然そのようなことを言われても、実感がわかないのは当然であろう。

 

 「明日になれば領民にもこのことを話すつもりである。

 お前たちはこれからしばらくは休みない生活になってしまうであろう。だが余はここにお前たちとの約定を交わそう!この面倒事が終わったらお前たちにしばしの休暇を与え、仕事を離れることを赦すつもりである!」


 家臣たちから「おぉ」と声が上がる。

 王宮内でも休日はあるものの、内政を支える数少ない人材であり、その休みは極端に少ない。そのため、休みというのは、ここでは極上の褒美であった。


 「余は此度の召喚に際してある者と盟約を交わした!

 その約定とは、おそらくはこの地の王である者の抹殺である!」


 家臣たちから驚きの声が上がる。

 その中には召喚した騎士への怒りの声も含まれていた。


 「我が王になんと勝手な!」


 「赦せぬ!」


 家臣は王として、神としてこの国で崇められているレヴェルトが利用されていることに憤りを覚える。当然怒る家臣たちだが、フロースがその家臣を鎮める。

 

 「鎮まりなさい! 王の話の途中ですよ!」


 フロースが静かにさせたのを見ると、レヴェルトは話を続ける。


 「余はその約定を果たすつもりである!だがすぐにその約定を果たそうとは思わぬ!

 王たるものは強欲である!故に自領にできたこの富んだ国は格好の餌である!であれば間違いなくこの国を攻め落とそうとしてくるであろう!

 だが!みすみす渡すつもりはない!

 余は至高であり神であり絶対である!ゆえにこの地を治めるは誰でもない余である!ならば攻めて来るにせよ来ないにせよ、余が攻め滅ぼしてくれよう!

 神王は絶対である!また新たにこの国を統べるものして余が君臨するとしよう!!」


 「おおー!!」


 王は宣言をする。

 家臣たちが声を高らかに上げる。

 まさに団結した瞬間である。

 家臣は叫び、王はその右手を天へと掲げる。

 この世界に安寧を、この国に平和をもたらすために。



 

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