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「おい、まだハッキリしてないことがあるぞ。」

 グランがネコダルを睨みつけ、次にショーゴに向かってガンを飛ばす。

「結局、この野郎は何のためにサダバナイについてたんだ?別に奴に協力するこたぁなかっただろう。」

「協力はしていない。」

 ショーゴは冷たく言い放つ。

「まぁ待ちたまえ、グランくん。ナナキくんが“ホワイトキューピッド”を食べる前にその存在に気付けたのは、ショーゴがそうなるようニオイを細工したおかげだ。」

「なにそれ?」

 一同が首を傾げる。ネコダルが喋るとみんな首を傾げてばかりなので、そのうち首が折れるかもしれない。

「毒キノコだよ。ホワイトキューピッドは食べると精神錯乱、攻撃性の発現、発熱、頭痛等の症状が表れる。処置が遅れれば呼吸障害や全身麻痺を起こし、ほとんど確実に死亡する。そのうえ乾燥させれば無臭で持ち運びも便利な代物だ。」

「!?どういうことだッ!!毒のことを知ってたのかッ!?」

 グランが立ち上がり、ショーゴに向かって牙を向く。

「落ち着きたまえよ。ショーゴはそもそもジョーダルの“マブダチ”という奴だったのだ。ジョーダルが“何か”と成り代わったのも、ショーゴが最初に勘付いたのだ。ずっとジョーダルの近くにいたリズに対し、ショーゴは表と裏の顔でジョーダルとの繋がりを悟られんよう、お互いに会う機会がほとんどなかった。そのお陰で、連続した緩やかな変化を見るリズより、断片的な点で大きなズレを観測できたショーゴの方がジョーダルの変化に決定的に気付いた。そして、一早くチェンジリング伝説に辿り着いた。それから、私のミスだが…ナナキくんが現れ、ジョーダルは完全に別人になり、ショーゴは親友に成り代わって平然としているニセモノを憎んでいたのだ。」

 ショーゴは無言でネコダルから視線を外している。

 チェンジリングを憎むか…。人への恨みってのは無力な自分を憎むことの裏返しな気がする。ナナキは前の世界でもずっと無力で、それを突きつけてくる人を憎んでた。それで結局疲れて人と極力関わらなくなった。

 無力な自分から目を逸らしたいから、他人や何かを恨む。けど視界の端にはいつも無力な自分がチラついて、恨めば恨むほどその分自分も嫌いになってムシャクシャする。そうなると増々恨むのを止められない。

 こっちに来てからはより一層無力なのに、恨む対象がなくなった。なくなると今度は無力な自分と直面する。それはそれで辛くて、楽になる方法を考えた結果、“恨み神”に辿り着いた。結局恨むし無力だけど、恨む対象をコントロールしてるという感覚が、気持ちのコントロールに繋がると気付いた。

「それが毒を盛った理由か?」

 グランは全然納得していない。被害者なのだから仕方ないが。

「まぁまぁ、ショーゴの気が変わったお陰で、狙い通りナナキくんが毒を食べずに済んだのだ。……結果君が毒を食べてしまったのはちょっとした誤算だったが……。とは言え、ナナキくんが毒を食べていたらサダバナイは医療システムを乗っ取って治療させない気だった。そうなれば彼の死は確実だっただろう。食べたのがグランくんだったから、サダバナイは手の内を明かさず、治療システムを使うことができた。その結果二人とも生き残り、めでたしめでたしじゃないか。」

「だがジョーが黄泉沼に落とされた時、止められる位置にいたのに助けなかった!」

 グランの怒りは冷めやらない。

「それはナナキくんがチェンジリングかどうか確証を得るチャンスだったからだ。違う方法で殺そうとしたら、何か手を打っただろう……多分な。なぁショーゴ?」

「………。」

 ネコダルの言葉をショーゴは無表情で無視した。ショーゴは、こっちの友人のニセモノのことも、あまり気に入ってないのかもしれない。

「グラン、お前が俺の代わりに毒を食ったのは俺も悪かった。あんなもん、そもそも食わずに捨てちまえば良かったんだ。」

 ナナキはグランをなだめる。

「捨てるなんて勿体ねェだろ!」

 ……意外なことに、グランはあの激臭料理を案外気に入ってたらしい。まぁ犬って路上の干からびたミミズとか大好きだもんな。もしかしたら、あの料理にはそれに近しい何かがあったのかもしれない。

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