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「先輩、いますー?」
ナナキはユディ号のブリッジに入る。その瞬間、多数のゴーレムが素早くナナキを取り囲んだ。
「その“先輩”と言うのをやめろ!!虫唾が走る!!」
サダさんはブリッジの艦長席に座り、その向こうにはショーゴがいる。
「何でこんな回りくどいことするんですか?俺が目当てなんですよね?」
ナナキはサダさんに近づき、向き合って疑問を投げかける。
「雑種の時もそうだが、貴様の周りに群がる邪魔者共のせいだ!それと、貴様には聞きたいことがある!貴様はあの時、どうして戻って来れたのだ!そのうえ、何事もなかったかのようにのうのうと会社に居座って、またもこうして…!!」
サダさんは顔を赤くして拳を固く握り、肩を震わせている。
「あの時って、前にここに来た時ですか?」
ナナキはとりあえず、リズの証言を元に鎌をかける。
「そうだ!俺はあの嵐の晩、確かに…!!」
「そうだな、あの日は確か……。うーん、思い出せない。そこの記憶が抜け落ちてて……。」
ナナキは腕を組んで大袈裟に全く思い出せないアピールをする。
「何!?記憶がないだと!?だから戻って来たと言うのか!!」
「そうなんですよ。すみませんね、ほんと。」
「馬鹿な……!!で、ではどうやって黄泉沼から戻ったか、自分でもわからないと言うのか!!」
「そうなんです。」
「な、ならばもう一度試してやる!!刃向かえば監禁してる奴らの命は無いからなッ!」
「………。」
「ああそれと、馬鹿な蝿どもが俺に手出しできんようにせんとなぁ?」
サダさんは今までで一番のエエ顔をする。画像にしてSNSで人を煽る時に貼り付けたくなるような顔だ。
「テレトルツー!ギレディオ・ケイヴィシンの名に於いて、ガーディアンを起動せよ!」
「カシコマリマシタ。」
サダさんがアニメのようなクサイ台詞を叫ぶと、ブリッジが振動して高い位置に持ち上がり、ユディ号の各部がガシャンガシャンと変形する。外を見るとレノ号も同じように変形し、真っ白で巨大な翼を持つ、幾何学的な首無しペガサスのような形状に変形した。
……何の意味があるのだろうか。
とは言え、サダさんの喜びようから察するに、彼はどうやらこれがやりたくてやりたくて仕方がなかったようだ。
「ンハッハッハー!見ろ!スゴイぞ!俺の力だ!すべてな!!ハッハッハー!!」
…さっき誰かの名に於いてとか言ってなかったか?確かどっかで聞いた覚えのある名前だったけど。…まぁ大方、黒幕の大御所あたりの名前なんだろう。とはいえ、水を差すと悪いので黙っておく。
「では行くぞ!今度こそ、貴様の最後をしっかりと見届けてやる!!」
「俺を殺したら、他のみんなはどうするんです?」
「安心しろ。全員お前の後を追わせてやる。」
「あなたが消さなきゃならないのは俺で、他のクルーは関係ない。なのにみんなを消そうとしてるのは、個人的な独断ですよね?」
「な、何が言いたいッ!!」
「俺だけが本来のターゲットなら、他のメンバーを殺すのはあなたの無能の証明にしかならない。それとも、それがわかってても処分しないと安心できないくらい、あなたは女の子たちが怖いんですか?犬は人間以下って言ってたそうですが、結局かなわないと認めるんですね?」
「き、キッサマァ~~~ッ!!それ以上の侮辱は許さんぞッ!!」
サダさんの顔はどこまでも赤くなり、完熟を通り越してポロッと落ちそうな勢いだ。ここまで怒るということは、多少気にはしてたんだろう。
「ならどうします?全員死ねば、会社は無能なりに目的を遂行したことを認めてくれるかもしれない。けど、大ごとになれば誰かが責任を負うことになる。それは誰になります?逆に、俺だけを消す任務を無事遂行し、穏便にみんなを丸め込めば、有能さを認められて会社の弱みと権力を同時に握る立場になれる。あなたの思い描くシナリオ通りに。」
「……確かにその通りだ。だが奴らは馬鹿すぎてそれが理解できんだろうな。」
でしょうな。
「そこは俺が説得します。それが俺の責任ですから。」
「ようやく自覚したか。いいだろう。どうせできんだろうがな!」
ナナキはゴーレムに囲まれながらブリッジの入り口に立った。変形のせいでかなり高い位置だが、叫べばバフ付きのグランに余裕で聞こえるはずだ。なにせ露天風呂ではナナキですら女子風呂の声が聞こえたのだから。
「グラン、聞こえるかー!?聞こえたら返事しろーっ。」
「………。」
「とにかく返事しろーっ。遠吠えでもいいぞー!」
「するか!!」
「うわっ、そこにいたのか!」
グランは首無しペガサスのすぐ近くの茂みに隠れていた。
「お前どんな命令だったら聞くー?」
「俺は命令なんざ聞かん!」
「お願いだったらどうだー?」
「…俺が納得できる範囲なら考える。」
「みんなの安全を守ってくれってのはー?」
「状況次第だッ。」
「どんな状況だー?」
「さぁなッ。」
「なら、お前次第でみんなが助かるか決まるなら、どーする?」
「知らん!」
「どうしたらみんなを助けようと思う?」
「気分次第だッ。」
「どうしたらそーゆう気分になる?」
「さぁな!」
「俺が死ぬ気で頼んでもダメかー?」
「……。さっきから何が言いてぇんだ!ハッキリしろ!!」
「言っても聞かねーっつーから言わねーんだっつのっ!そうなったら肝心なのは、お前が納得するかしないか、それだけだろ?!」
「何でそうなる!!勝手に決めんな!!」
「決めるのはお前だ!いいか?人間はいつか死ぬ!いつか死ぬ事実は納得しようがしまいが関係ないし、誰を恨んでも仕方がない!…神様以外な!だから納得できることが大事なんだ!お前にとっても、みんなにとっても、もちろん、俺にとっても!」
「おい、話が長いぞ!イイ加減にしろ!」
サダさんが痺れを切らして会話に食い込んできた。確かに、一理ある。
「みんな、聞こえるかー?この旅のこと、それにこれから起こる出来事をなかったことにすれば、全員しっかり生きて帰れる!仲良くなったことや経験をチャラにしろってんじゃない、他言すんなってだけ!簡単だろ?わかった?」
そう言うと、茂みのあちこちから女性陣が続々出てきた。
「ナナキ、どういうことなの!?」
「ジョー艦長!」
みんなが近くに集まりながら口々にナナキを呼ぶ。
「ですよね?」
ナナキはサダさんを振り返る。
「それができればな。そうだ、ついでに全員拘束させろ。それが無事に帰す条件だ!」
「やっぱり怖いんですか?この巨大ロボも、もしやハリボテなんじゃ?」
「ばッ馬鹿が!この形態は完全無敵最強ッ!!防犯システムも積極的攻撃仕様になっている!!むしろ間違って踏み潰さんよう気を遣ってやってるのだッ!」
やっさすぃ~~~。ならありがたく、サダさんのツンデレを利用するか。
「そちらが条件を増やすなら、こちらも増やします。拘束以外、絶対誰にも危害を加えないで下さい。健康も精神も害さない。そうじゃないと、ティリィだけ残していきますから。」
「ハンッ!そんなオモチャに何ができる?」
「そうですね、試しに飛空艇のマナラインを破壊してみますか?ヘイ、ティリィ!」
ナナキの端末が丸いキャラになって浮かび上がる。
「オヨビデショウカ?」
この端末はジョーダンがプログラミングでいじっている。本当に破壊できるかもしれない。
「今すぐマナラインを破壊して。」
「ワカリマシタ。」
そう言うとティリィは紐状に変形し、蛇のように素早く移動してゴーレムの足元をすり抜けながらブリッジの入り口へ向かう。
「待て!ヤメロォッ!!」
サダさんは狼狽してがむしゃらに叫んだ。
「ティリィ、戻れ!」
ティリィはスルスルとナナキの元に戻ってきて、腕に巻き付きリング状になった。コイツ今、圏外だからって物理的に破壊しに行こうとしたな。ジョーダンの奴、どんだけ物騒なプログラムを組んでんだ。
「その端末をこっちに寄越せ!!」
「ティリィ、隠れて。」
そう言うと、チョコリングはまた紐状になりナナキの服の中にスルンと入って行った。
「貴様~~~ッッ!!」
「大丈夫ですよ。約束してくれるなら、コイツは俺と一緒にいく。」
「くッ、本当だな?もし嘘なら…」
「本当の本当です。」
もしかしたら、ティリィなら飛空艇のAIすら乗っ取れるかもしれない。けど、そんなことしたら追い詰められたサダさんがいよいよ発狂して何をしだすかわからない。飛空艇のハックだけじゃなく、別途自爆手段を用意してる可能性がある。ナナキの知る悪役はだいたい最後自爆オチだ。
そんなことを考えながら、ナナキはまた下に向かって声を張る。
「ほら、ちゃんとみんなを無事帰してくれるって約束したから。」
「そいつの言うことなんて、信用できないっす!!」
サンは率先してサダさんの不信発言をする。
「ジョー艦長はどうなるんですか??」
「セーブデータが巻き戻るだけだから、気にしないで。」
「ど、どういうことですか…!?」
言葉の意味はわからないが、クーは困惑し、マァヤは泣きそうになっている。
「レノアンネのゴーレム共、そいつらを拘束しろ。行け、ユディキュリア!!」
サダさんの命令でレノ号からゴーレムが続々排出される。ユディ号の首無しペガサスは軽く走って大きく飛翔し、一瞬でかなりの距離を移動すると、そのまま宙空で停止した。
そして、ユディ号のゴーレム達によって、ナナキは眼下にある真っ黒な黄泉沼に無造作に投げ込まれた。
落とされる直前、バフ付き視力で、遠目にグランがゴーレムを跳ね飛ばし、レイネがこちらに向かって翼を広げ、他のみんなもすぐさま抵抗するのが見えた。
あーあ、俺はやっぱ何もできなかったなぁ。……
光を吸収する真っ黒な穴は、ブラックホールのようにナナキを吸い込む。
ドップンという無機質な音とともに、ナナキは漆黒の中に墜落した。
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