4
「雷撃弾が命中した!このまま逃げた女を…」
「おい!上だ!」
意気揚々と大声を出すキレ男を無視し、グラサンワンコが上方へ向かって発砲する。ナナキが目指していた崖上のポイントから、大きな黒い影が三つ現れた。
黒い影の一つは崖から飛び出て、高い位置からナナキを追ってきた三人に向かってバルカン砲を威嚇掃射し、もう一つはその隙に風を切る鷹のように崖下へ高速で急降下する。更にもう一つは三台のうち中央のジェットバイクに向かって自由落下し、その着地ざまに搭乗者の肩口に咬みつくと、そのまま後方に向かって思いっ切りブン投げた。投げられたキレ男は叫びながら宙を舞い、グラサンワンコは飛来してくる彼の顔面を真っ向から蹴って弾き落とした。蹴り飛ばされたキレ男は「グエッ」と潰れたヒキガエルのような声を発し、そのまま湖に向かって落下していく。先頭にいたワイルドレディはそれに気付いてジェットバイクに乗り移った黒い影を撃とうとするが、自分に向かってきたバルカン攻撃を避けるため、舌打ちをしながら急いでその場を離脱した。
「お前、ドッグファイトは苦手そうだな?」
グランはキレ男から奪ったジェットバイクのエンジンを吹かしながら、ニヤけ顔でグラサンワンコを挑発した。
「雑種ごときが、闘犬様に喧嘩を売る気かッ!!」
グランが指で「着いて来い」と合図して急速に上昇すると、怒ったグラサンワンコがそれを追ってスラスターを全力で点火し、背後からグラン目掛けてバルカン砲を撃ちまくる。グランはジェットバイクを華麗に操って弾幕をかわし、そのまま複雑な動きとスピードでグラサンワンコの背後を奪う。グラサンワンコも負けじと激しい動きで応戦する。
一方その頃、敵から奪ったジェットバイクを駆るクーと、その砲撃を受けてやり返しに来たワイルドレディも、女同士のキャットファイトならぬ激しい空中戦(ドッグファイト)を繰り広げていた。
そうした一連のやり取りで敵の注意が逸れた隙に、急降下していたレイネは無防備なナナキを空中でキャッチし、抱きかかえるようにローリングしつつ滑空体勢に移行。そのまま近くの浮島に着陸すると目立たないようナナキを岩陰に隠し、レイネ自身もその場に身を潜めて待機した。
そこに、空中乱闘の外側からこっそりジェットバイクでやってきたマァヤが、自分の後ろに脱力状態のナナキを乗せ、それをレイネが支えながら飛空艇のある島の方へ大回りに移動する。流石に場所が乱闘に近すぎるので、流れ弾に当たる危険性が高いという判断だ。
クーと互いに息もつかせぬ攻防戦を繰り広げていたワイルドレディが、目ざとくナナキ救出隊の動きに気付き、一瞬そちらへ注意を向けた。その隙をクーは見逃さず、一思いに相手のジェットバイク後部をピンポイントで撃ち抜く。体勢制御リングとバーニアを被弾した機体は煙を上げ、操縦も利かないままワイルドレディはジェットバイクごと湖に向かって落下して行った。
「か…勝った…!私が…!!」
クーは自分でやったことながら驚きと興奮でその場に佇んだ。
「クーさん凄かったですー!!助かりましたー!!」
「ナイスファイトよ~♡とーっても格好良かったわ~♡」
クーの闘いっぷりを飛びながら見ていたマァヤとレイネが、崖の上からクーに向かって手を振る。クーもそれを見て安堵し、すぐにハッと気を引き締め直すと、少し前にレイネたちとは逆方向の崖上に向かったグランの助太刀に向かうことにした。
グランとグラサンワンコは激しく交戦しながら島の上空に出ると、グランを先頭に二台のジェットバイクが一直線に並んだ。その瞬間、グラサンワンコのバルカン砲がグランのジェットバイクを直撃する。
しかし、グランはその直前にジェットバイクを捨てて飛び上がり、追って来た相手に上空から急降下して一気に襲いかかった。二人はそのまま草原に着地して距離を取ると、グラサンワンコはグラサンを外してその辺に投げ捨てる。
「闘犬に肉弾戦を挑む気か!望み通り粉々のミンチにしてやるッ!!」
そう怒鳴るとワンコは鬼の形相で牙を剥いて地面に両手をつき、四足のまま猛スピードでグランに突進した。
グランも両手を地面について臨戦体勢で身構え、勢いを付けて激しく飛び掛かってくるワンコの爪と牙を、軽いステップで次々かわす。頭に血の上ったワンコは地面に両手をついて低く構え、全身のバネを使って一直線に相手の喉を狙うも、咬みついた牙は宙を裂いただけだった。グランは相手の攻撃を紙一重で避け、その流れのまま相手の後ろ首に牙を食い込ませると、体制を崩した相手を強引に引き倒し、更に踏み込んで力任せに崖の向こうへとその巨体を勢い良く投げ捨てた。
ワンコは「ワオーン」と吠えながら崖下へ墜落して行き、ザブン、ザブン、ドボンという連続した水音が小さく鳴り響いた。
「フン、口の使い方も知らん闘犬とは笑わせる。」
グランは崖下に向かって捨て台詞を吐いた。
「グランさん、流石です…!ぜんぜん入り込む余地がなかったです。」
グランとワンコの闘いを上空から見ていたクーが声を掛けた。
「フン、当たり前だ。行くぞ」
グランはそれだけ言ってさっさときびすを返し、クーはその後に続いた。
「おい、生きてるか?」
「あ、グランさん!ジョー艦長はご存命です!レイネさんが空中でキャッチしてくれました!今は治療中ですぅ!」
マァヤが横たわったナナキに治癒魔法をかけている。
「先程のグランさんの闘いっぷり、空から拝見させてもらいました♡とってもロマン満点の闘いっぷりでしたわ♡」
ナナキの隣に座っていたレイネがグランを称賛する。
「ああん♡アタシも皆さんの勇姿に痺れまくってこのザマですわぁん♡」
横になりながらもふざけるナナキを、グランはうんざりした顔で見下ろした。
「テメーはキショイから黙ってろ!」
「おい、今は俺がヒロインだぞ!心配しろコラ!」
「あ、ジョー艦長、もう少しだけ安静にしててください。」
なんとか起き上がろうとするナナキを、マァヤが無理矢理寝かせようとしてその両肩をグイグイ押す。体の痺れが回復仕切らないナナキは、簡単に押し負けてバッタリ倒れ、マァヤの下敷きになった。
「それにしても、あの方達は何者だったのでしょうか?」
クーがそう言って首を傾げると、レイネが目を伏せて全員に向かって姿勢を正す。
「皆さん、私の問題に巻き込んでしまって本当に申し訳ございません。あの人たちは私の前の職場の関係者に命令されて、遥々こんな所まで私を追って来たのです。」
「ええっ!?前のお仕事って何だったんですか!?」
マァヤがビックリしてレイネに訊く。
「とっても大きな会社の秘書ですわ♡……私、そこの社長さんに気に入ってもらったのですが、気に入られ過ぎて“身の危険”を感じて、それでこっそり辞めて逃げることにしたの。そんな時に島渡しプロジェクトを知って、東方面ならマナライン範囲外なので彼らを撒けると思ったのですが…。逆に大変なご迷惑をお掛けしてしまいました。」
レイネは丁寧に座り直し、申し訳なさそうに謝った。
「そんなことがあったんですね……。けど!レイネさんの敵はクーさんとグランさんがやっつけちゃいましたし、もう大丈夫です!」
マァヤは両手を軽く上げてガッツポーズをする。ナナキも最初の一人を巻き込み事故で倒したのだが、クーとグランの派手な活躍のおかげで地味に忘れられた。
「まぁ、これから先は通信手段もほとんどなくなるし、もう追って来れんでしょ。……それにしても、みんな本当に凄かったなぁ。」
「フフ♡ジョー艦長が敵を引きつけてる間に、みんなマァヤにバフを付与してもらったの♡」
「バフの効果、思った以上に凄かったです。運動神経だけじゃなく、動体視力や集中力も並外れて良くなってたのが実感できました。」
レイネの言葉にクーが感想を付け加える。
「それって元々素質があったってことじゃね?0が倍になっても0だし、素人が10倍強くなってもプロに勝てるとは限らないように思うけど。」
「その通りです!!クーさんの集中力や操縦スキルは素質と才能の賜物ですっ!!グランさんなんか、バフを断ったのに闘犬さんに勝つなんて流石ですっ!!」
マァヤがキラキラした目で興奮気味に二人を褒め称えた。
「そ、そうなのでしょうか…?私、ゲームとジェットバイクの運転は好きですが、こんなにうまく動かせたのは正直驚きでした……。」
クーは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「フン、俺は先に戻るぞ。お前は女の後ろにでも乗せてもらえ。」
グランはおだてられて照れ臭かったのか、さっと顔を背け、そのまま飛空艇の方向へほとんど一瞬で駆け去ってしまった。
「あ、おい待て!戻って来いグランッ!!」
「仕方がないですわ♡艦長の乗って来たバイクも壊れて、残るはクーとマァヤが二人で乗って来たバイクと、頂き物のバイクの二台だけだけですから♡」
「いや、オートでなんとか……。」
「たとえオートでも、その体じゃ何かあった時対応できませんから。私の後ろにでも乗ってください。」
クーがピシャッと言い切る。
「まぁ、ロマンティックね♡」
「ロマンティックです~!」
「い、いえ、そうゆう意味じゃ…!!」
レイネと無自覚なマァヤにいじられ、クーはより一層赤面した。まさか女の子の後ろに乗せてもらうことになるとは、本当にヒロインじゃないか……。
その後、力が入る程度に回復したナナキは、恥ずかしながらクーの後ろに乗せてもらい、レイネはマァヤの後ろに乗ってユディ号に帰還した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます