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 その頃、マァヤ、レイネ、サンは露天風呂でキャイキャイと女子会をしていた。

「え、ええーーー!!レイネさんって、サキュバスなんすかーっ!?」

 サンは大声をあげた。

「しー!これは、ここだけの秘密よ♡」

「す、すごいです!マァヤさんはエルフ、レイネさんはサキュバス……カッコイイっすー!」

「か、かっこよくはないよ…。」

 マァヤは恐縮して縮こまる。

「そもそも、どうしてエルフさんがこんな所に?エルフって凄く高貴で全員貴族なんですよね?」

「う……。わたし、エルフだから、貴族だからって何もやらせてもらえないのが嫌で……。それに、エルフは古い魔法を隠して、そのうえで人間は魔法も理解できない無知で劣った存在だって、そんなことばかり言ってるんです。人間にエルフは高貴だ賢いんだって奉られて、それをそのまま享受して、なのに人間を使用人みたいに扱って……。一部のエルフは人間と結婚したり、人間社会でお仕事したりするんですが、そういう方はエルフ間では異端扱い、人間の中では特別扱いで、結局なかなか自由にさせてもらえないんです。」

「へー!僕は仕事なんてしたくないんで、貴族羨ましいっすー!」

 サンは欲望に正直だ。

「でも、貴族だからって何をするにもルールがあって、いつも周りの目を気にしなきゃいけないし、どうするべきかも誰かに決められて、行きたい所にも自由に行けないし……。いつどんな時も伝統やしきたりでガチガチで、いつも賢いフリをして、奇抜なことをすると仲間外れにされて……自分の意思なんてどこにもないんだよ?」

「うっ、それはちょっと嫌かも……。」

 サンは肩をすくめる。

「それにね、エルフって知識や賢さをすごく重要視するのに、目に見えないものや証明できないことは無いものみたいに扱って、すっっっごく拒絶するの。だけど私、心の繋がりとか、縁とか、魂とか、精霊とか、…あと神様とか、そういうの、いっぱい信じたいんです!……ただ、盲信するって意味じゃなくて、人間と鳥や魚の世界の捉え方が違うように、ただ説明できないから無いと言い切らず、抽象的なカタチとして持っておくことが大事だと思うんです。」

 マァヤは胸の前で手を握りしめ、真剣に自分の気持ちを言葉にした。

「ふふ♡私はマァヤの生き方、とってもロマンチックで素敵だと思うわ♡」

「あ、ありがとうございます!そう言っていただけると、とっても嬉しいです…。」

 マァヤはレイネに褒められて、嬉しくも恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「僕も、マァヤさん凄いと思う!そうやってちゃんと自分の考え方持ってる人、尊敬するっす!」

「えへへ…。マァヤでいいよ。サンさん。」

「いいんすか!?じゃぁ、自分もサンって呼び捨てにしてほしいっす!その方がややこしくないんで!」

「えっ…う、うん!ありがとう、サン♡」

「こちらこそ、ありがとう、マァヤ!」

「いいわねぇ♡青春ねぇ♡」

 レイネはサンとマァヤのやり取りをホッコリと眺めながら胸元で手を合わせた。

 突然、サンが「あっ!」というように、レイネに向き直る。

「そうだ、レイネさん、サキュバスって、男性の……その、性を吸うって聞いたことあるんですが、本当っすか!?」

 サンは隠しきれない好奇心いっぱいに、レイネに質問する。マァヤはそれを聞いてパッと赤くなった。

「そうね、人間のサキュバスのイメージって、男性の…特に裕福な人を虜にして、相手が失墜するか廃人になるか、あるいは死ぬまで性を吸い尽くすって感じでしょ?」

「う……ニュースで見るのはそんな感じっす…。」

 サンは正直に答え、マァヤは申し訳なさそうに目線を逸らした。

「ほぼその通りよ♡」

「ええーっ!!そうなんすかー!?」

 サンは驚いて勢いよくザバァッと立ち上がり、マァヤは思い切りその水飛沫を浴びる。

「ふふ♡正確には、そうならざるを得ないってとこ。」

「?なんでっすか?」

 サンとマァヤは一緒に首を傾げる。

「人間って、一夫一妻を好むでしょ?偉い人は、世間のイメージも大事だから、より一層そういう傾向があるの。実際には、そういう男性は裏でたくさんの女性を囲ってるんだけど♡とはいえ、相手を束縛したがる男性も多くって。だから、偉い人に気に入られたサキュバスは、一人の男性から性を吸わざるを得なくなるの。」

「えーっ!そんな裏事情が!?初めて聞いたっす!!」

 サンは食い入るようにレイネの話を聞き、マァヤは少しオトオトと動揺している。

「それにね、サキュバスは外見が派手だし希少性も高いから、人間の男性にとっても人気があるの♡とりわけ上昇志向の高い男性にね♡トロフィーワイフってところかしら♡」

「ええー!ヒドイっす!女はトロフィーじゃないっす!」

 サンは再びザバァッと立ち上がる。マァヤはその水飛沫をモロに浴びる。

「まぁまぁ♡女性もイケメンとかたくましい人好きでしょ?」

「確かにそっすけどぉ…。けど、結局大事なのは中身っす!ね、マァヤ!」

「は、はい。そうですね、お互いを受け入れて、認め合う事が大事だと思います。」

 サンは強くマァヤに同意を求め、マァヤは少し恥ずかしそうにしつつも、素直にサンの意見に同意した。

「ふふ♡因みに、一般的にはほとんど知られてないけど、“性”っていうのは本当は“気”のことで、簡単に言うと生命エネルギーって意味なの♡“気を使う”とか“心を開く”って表現の通り、“気”はエネルギー、“心”は間口になってるのよ♡サキュバスだけじゃなく、生物はみんな普段から気のやりとりをしてるものなの。最近の人は“気”というものを信じなくなってしまったけど。そして、本来のサキュバスは人に良い夢を見せて、それを通じて代わりに少し多く相手の気を吸わせていただくの。それらがいつの間にか別の意味に誤解されて、サキュバスに入れ込んだ人々が“性”を過剰に与えたがり、サキュバスも見境なくそれを奪い、いつの間にか相手を潰してしまう。これが当たり前になってしまったの♡」

「へぇー!!全然知らなかったー!!世の中って知らないこととか、いつの間にか思わされてることばっかりなんだー。ちょっとショックっす~。」

 サンは複雑な表情で肩を落とし、マァヤも口までお湯に浸かってショボンとした。

「それにしても、お二人ともすごいっすねー!僕なんて、社会人なりたてだし、自分に何ができるか、何になりたいかも、いまだに全然わかんないっす。それに今お二人の話を聞いて、自分の知識や考えがすっごい浅いってことを思い知ったっす。……知らないと言えば、今回のプロジェクトにもなんで採用されたのかサッパリわかんないんすよね~。そもそも島渡しプロジェクトって、最初の頃は豪華社員旅行感覚で、なにか成功した人とか偉い人が行くって聞いてたくらいっすもん。」

「あ、それ、島渡しプロジェクトについて調べてる時に私も見ました。けど安全な島はみんなマナラインを設置し終えたから、今は外部から募集してるって。」

 マァヤもサンの話に乗る。

「危険だから選ばれたってことっすかねー?お払い箱的な?」

 言ってサンは、ちょっと悲しそうに視線を落とす。

「そ、そんな事ないよ!むしろ、期待してるから選ばれたんだよ!ほら、サンっていつも元気で、体力もありそうだし!」

 マァヤは精一杯サンを励ます。

「確かに僕、体力だけは自信あるっす!雪撃の選手だったんで!ほら、この日焼けもそれでついたやつっす!」

 サンはわざわざ立ち上がって日焼けあとを二人に見せた。胸の下あたりまでの短い丈のタンクトップとサイドにカットのあるショートパンツのあとがクッキリ肌の濃淡で分かれている。

「とっても綺麗な日焼けね♡健康的で素敵よ♡」

「ほんと!服着てないのに着てるみたい~!」

「そ、そう言われるとちょっと恥ずかしいっす…。」

 マァヤの率直すぎる褒め言葉に、サンはちょっと赤くなって肩までお湯に浸かった。

「フフ♡理由はどうあれ、私はここにいるのがサンで良かったと思うわ♡だって今とっても楽しいもの♡」

「私もです!…できれば、クーさんとも背中流しっこしたかったなぁ~。」

「クーさんはお留守番するって言ってたっす。もしかしたら、温泉好きじゃないのかもしれないっすね~。」

「そうなのかな~?こんなに気持ち良いのになぁ…。」

「次の機会があったら、また誘ってみましょ♡」

「そっすね!今度は四人で女子会したいっす!」

「そうだね!!」

 こうして、マァヤ、レイネ、サンの三人は時間を忘れて楽しく長風呂し、ポカポカハッピータイムを心ゆくまで満喫した。

 一方サダさんはというと、露天風呂にいたタヌキカピバラモドキに喧嘩を売って足を滑らせ後頭部を強打し、ショーゴに運ばれて早々に露天風呂を後にしていた……。

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