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 また部屋に「フォーン」という音が響く。最後の面接者だ。

 憂鬱げに資料に目を落としていたナナキは、チラッと面接者を見た。そして、素早く二度見した。

 黒いスーツっぽいジャケットの前面をガッツリ開け、猫背でダルそうに歩き、目付きもガラもかなり悪く、ガッシリした体格の機嫌の悪そうな、……犬。

 そう、犬だ!犬と言っても、胴体に比べて長い腕と足は筋肉質で太く、二足歩行でかなり安定している。シャキッと立ったら軽く2mはありそうだ。フサフサの赤みの強い焦げ茶の毛に、黒と白の不均衡なまだら模様がいかにも雑種っぽい。

「グラニド・ケヴィロック。……人犬族だ。」

 シャベッタァァァァァ!!!ナナキは心の中で叫んだが、現実では目を丸くして固まっている。

「………チッ」

 犬は舌打ちした。

「採用!!」

「………何?」

 ナナキはやたら興奮していた。彼の黒い鼻面と尖った耳が、実家にいた頃ずっと一緒に育ったざ犬を思い起こさせた。幼い頃、七旗丈助にとって愛犬は唯一無二の親友だった。その経緯から、ナナキはバカみたいに犬好きを拗らせている。

「キミ採用、確定ドン!」

 ナナキはでかいハンコを押す真似をした。

「あ?俺まだ何も言ってねーんだが?」

 ワンコは訝しげに眉間にシワを寄せる。

「あなた、採用されたくて来たんですよね?」

「そりゃそうだが、まさか採用されるわけねーと…」

「なんで?」

 ナナキはもう、悩んでいたことなど忘れて、目の前のワンワンの毛並みに夢中だ。

「そりゃ、ここは結局人間しか採用されねぇとか、そもそも俺純血種じゃねーし…」

「そうなんだ!雑種って強いしカッコイイし、サイコー!!」

 ナナキはテンションが爆上がりしている。低収入安アパート一人暮らしの七旗丈助は、犬を飼えないし触る機会もなので、慢性的な犬不足だった。

「そんな簡単に決めていいのか?俺がどんな奴かもわかんねーだろッ。」

 ワンコが何やらワンワン言っている。

「健康に良いとわかってても、俺は絶対に納豆は食わない。その逆もまた然り。はい、今日の面接終わりね。俺このあと多分上司かなんか探して色々聞かなきゃだから。」

 ナナキはワンコに歩み寄り、握手を求める。

「よろしくね!」

「あ、ああ……。」

 ワンコは状況を飲み込めないまま、渋りつつ手を出した。ナナキはすかさずがっしり両手でそれを握り、硬くも柔らかい肉球の感触と、手入れ不足の手の甲の毛並みを堪能した。

 ふぁ~~~。久しぶりの肉球……素晴らしきこの世界……。

 ある意味、このワンコがメスじゃなくて良かった。メスだったら種族を超えてセクハラになる可能性もある。

 犬によっては、あまり長く手の平を触られるのを嫌がる。しっかり感触を堪能しつつも、ナナキはパッと手を離し、ちょっと名残惜しそうにワンコを眺めつつ出口に向かう。

「それじゃ、次会う日まで……。」

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