最終話.ダンジョントランスポーターズ!

「美那、お前もふられたみたいだな」


 翔琉たちが去った後も青の湯に留まっていた美那の前にダイゴが現れた。


「ふん、君に言われたくはないな」


 美那はつんと顔を背けて手に持っていた缶ビールをあおった。


「で、どうだった?鑑定士のお前さんから見たダイゴは」


「実に興味深いね」


 美那はスルメを齧りながら目を輝かせた。


「彼の中には何かがいる。私たち冒険者がダンジョンで体内に取り込んだものとはまた違う何かだ…それが何なのかまだわからないが、大いに研究する価値があるよ、あれは」


「そこまで気になるなら無理やり引き入れても良かったんじゃないか?お前さんの魅了チャームでもなんでも使ってよ」


「そんなもの彼には効かないよ」


 美那は鼻で笑った。


「あれはおそらく私たちとは全くレベルが違う。もっと深層の存在だ」


「ほう!」


 ダイゴが興味深そうに息を吐きだした。


「じゃあお前の予測通り…」


「ああ、ダンジョンは深層に行けば行くほど高次の存在が生息するようになるという私の予想がこれで更に強固になったよ」


 美那は嬉しそうに頷いた。


「彼をもう少し調べたらもっと詳しく分かったかもしれないのだがね。リクルートできなかったのが残念だよ」


「その割にはあまり惜しそうじゃないな」


「彼はダンジョンに潜り続けると言ったんだ。今はそれで充分さ」


 美那はそう言って再びビールをあおった。


「ダンジョンは繋がっている。ならばまたいずれ会うこともあるさ」





    ◆





「本当に断っちゃってよかったの?折角美奈さんが誘ってくれたのに」


「いいんだって」


 ナナの言葉に翔琉は苦笑しながら頷いた。


「世界トップクラスの冒険者なんて俺には荷が重すぎるよ」


「…でもよかった。翔琉が行かなくって嬉しい」


 灯美が安堵したように息を吐いた。


「そ、そりゃまああたしだって?カケルがケイブローグに入らなかったのはちょっと嬉しかったり…するけど」


 ナナもそっぽを向きながら頷く。


 その頬が微かに朱に染まっている。


(まったくお前って奴は…2回も断るなんてよお)


 一方でリングは頭の中でぶつぶつ言っていた。


(いつになったら999層を目指すんだよ。つうか俺を帰す気あんのか?)


(うるさいなあ。別にそうは言ってないだろ。今はその時じゃないってだけだって)



「でもこれからどうすんの?運び屋をやるって言ってたけど、どこから仕事を受けるつもり?」


「オットシさんに協力してもらうことになってるんだ。オットシさんは商人だろ?ダンジョン内に取引相手が何人もいるんだけどそこまで行くのが大変らしいからそれを手伝うことにしたんだ」


 翔琉はそう言うとバックパックの口を開けた。


 中には地上から持ってきた荷物がどっさりと入っている。


「今回の件を機にオットシさんと一緒にNPOを立ち上げたんだ。名前はダンジョン運送ギルド。ダンジョン内の町と地上でネットワークを作って物資を供給するためのギルドなんだ。冒険者はそこから依頼を受けて町へ物資を運び、報酬を受け取ることになる。で、俺はその先陣ってわけ」



「へえ~、そんなことを考えてたんだ」


 ナナが感心したように翔琉を見た。


「自分一人だけだとやっぱり限界があるし大規模には出来ないからね。今は8層までだけどいずれもっと深いところまで行くつもりだよ」


(だからそのうち999層まで辿り着いてやるから大人しくしてろよ)


 翔琉は頭の中のリングに話しかけた。


(へいへい、何百年かかるのか知らねえけどね)


(そんなにかかったら死んでしまうわ!)



「だから本格的にダンジョンに潜ることにしたんだ。スーパーのバイトも辞めたしね。これで俺も冒険者と言えるかな?」



「そうね…そうと言えるかもね」


 ナナがもじもじしながら翔琉の方を見た。


「それで…その…カケルは1人で運ぶつもりなの…?」


「?まあ最初はそうなるかな。いずれギルドも人を増やしていく予定だけど今は伝手もないし」


「で、でもそれじゃあ大変なんじゃない?ダンジョンはモンスターもいるし、いくらカケルが強くっても怪我することだってあるかもだし…」


「実はそれは確かにそうなんだよね。だから…」


 翔琉はそう言ってナナを見た。


「良かったらなんだけど、手伝ってくれないかな?ナナは大学生だからずっとという訳にはいかないだろうけど、もし良かったらどうかな?」


 いきなり切り出してきた翔琉にナナは眼を大きく見開いて固まっている。


「…駄目かな?駄目だったら諦めて別の人を探すけど」


「だ、駄目じゃないって!やる、やるよ!」


 ナナは大慌てで手を振った。


「ほんとに!治癒士のナナが入ってくれるならこれ以上心強いことはないよ!」


「そ、そう!私が入るからには怪我なんか絶対にさせないからね!ついでに給料だって弾んでもらうから!」


「もちろん!それは期待しておいてくれよ」


「私もやる!」


 灯美が手を上げた。


「私もいずれ1人立ちしなくちゃいけないんだし、それだったらダンジョンで暮らしていきたい」


「じゃあこの3人で始めよう!これからもよろしく頼むよ!」


「こちらこそ!」


「これからもよろしくね」


 翔琉が差し出した手をナナと灯美が力強く握り返した。


「あ、それだったらいっそのことチームを組まない?チームを組んでおけば他の冒険者に対して泊が付くしダンジョンナビアプリのチーム専用フォーラムに参加することもできるよ。依頼によってはチーム単位でしか受け付けないこともあるし」


「それはいいね!じゃあ俺たちは今からチームだ」


 ナナの提案に翔琉が頷く。


「そうなるとチーム名が必要だよね」


「実を言うともう決めてあるんだ」


 翔琉は灯美に笑いかけた。


「チーム名は…ダンジョントランスポーターズだ!」




― あとがき ―


ご愛読ありがとうございました!


『ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった』はこれにていったん終了となります。


初めてのローファンタジーものとして現代とファンタジーをどう組み合わせていくか、色々試行錯誤しながら作っていました。


今は新作を構想中です。


おそらくそう遠くないうちにまたカクヨムでお会いできると思います。


約1か月半お付き合いいただきありがとうございました!

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ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった 海道一人 @kaidou_kazuto

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