35.豊洲 - 2 -
「よっ!約束通り手伝いに来たぞ」
ダイゴはまるで家に遊びに来たかのように陽気に片手を上げてきた。
「な、なんでこんな所に?」
「あれから俺もダンジョンを出てきたんだよ。で、オットシに様子を聞いたらここにいるって言うじゃないか」
ダイゴは周囲にいる半グレを気に留める様子もない。
「っんだ、てめえはよお!」
半グレの一人が鉄パイプを手にダイゴに襲い掛かった。
ゴッ、という鈍い音と共にその半グレが宙を舞う。
「あれだろ?ここにいる連中がカケルを騙そうとしてる奴なんだろ?だったら加勢しないとな」
「てめえっ!」
5~6人の半グレが一斉にダイゴに向かっていく。
しかしその直後に全員が床をのたうち回っていた。
ダイゴの手にはいつの間にか鉄パイプが握られている。
それで一瞬のうちに男たちを打ちのめしたのだ。
(速い…!目で追うのがやっとだ…)
翔琉はダイゴの強さに改めて驚愕した。
「なんだこいつ?強えぞ!」
「おい!こいつを囲め!油断すんなよ!」
半グレたちは今や翔琉そっちのけでダイゴに集中している。
「ちょ、ちょっと待った…!まさか…あいつは…」
その時、蛤が口を開いた。
驚愕の眼差しでダイゴを見ている。
「なんだ?あいつのことを知ってるのか!?」
「し、知っているというか…ネットで見たことがあるって言うか…」
聞き返す蛇巳多に震える声で蛤が答えた。
「あの男…多分プロのダンジョン探索チーム、ケイブローグのリーダー、D…堂島
「D?俺も聞いたことがあるぞ…!」
「確か…ケイブローグって世界トップクラスの
「なんでそんな奴がここに…」
半グレたちの間に驚きの声が広がっていく。
「なんだ、俺のことを知ってる奴がいたのか。覆面くらいしてくるべきだったか?」
ダイゴは失敗したという風に頭を掻いた。
しかし全く困っているようには見えない。
「ダイゴって…本名だったのか」
「ダンジョンではDで通ってるんだけどな。俺くらい有名になると本名も知られちまってるんだ」
ダイゴは翔琉の方に近づくととにやりと笑いかけてきた。
2人の周りを半グレたちが取り囲む。
数は20~30人はいるだろうか。
蛇巳多がダイゴに詰め寄った。
「で、その有名冒険者様が何の用だ?招待した覚えはねえぞ」
「こっちも招待された記憶はないね。まあこんな小汚いところは招待されても来たくないけど」
涼しい顔で答えるダイゴの言葉で蛇巳多の額に分厚い血管が浮かび上がる。
「調子に乗ってんなよ?てめえら冒険者はダンジョンの中じゃ怪しい力が使えるみてえだが地上に上がってきたら普通の人間なんだろ?強がってんじゃねえよ」
「だったら試してみる…」
その言葉を待つことなく蛇巳多が殴り掛かった。
しかしその拳が届く前にダイゴの持つ鉄パイプが蛇巳多の胴にめり込んでいた。
「ぐうぅっ」
蛇巳多は地面に膝をついて盛大に吐しゃ物をまき散らした。
「あ~あ、汚えなあもう」
「ダイゴってレベル幾つなの?」
翔琉は内心舌を巻きながらダイゴに尋ねた。
「…って、てめえらこいつらをぶっ殺せ!容赦するんじゃねえ!ここから生きて出すな!」
その時、息も絶え絶えな蛇巳多の号令と共に周りの半グレが一斉に襲い掛かってきた。
「あれ、そういやまだ言ってなかったっけ?」
ダイゴは鉄パイプを構えながらとぼけたように言葉を続けた。
「俺はレベル100、ジョブは戦士だよ」
その言葉と共に襲い掛かってきた半グレを次々に叩きのめしていく。
それはまるで子供が木の棒で道の野草を振り払っているような気軽さだった。
しかしダイゴが鉄パイプを振るうたびに半グレが一人、また一人と倒れていく。
「す、凄え…」
その様子を翔琉は呆然と眺めていた。
(人間の割にまあまあやるじゃねえの)
リングも感心している。
「冒険者って地上ではスキルが使えないはずなんじゃ…」
「これはスキルじゃないからね。単純に俺が強いだけなんだ」
腕を止めることなく戦い続けながらダイゴは世間話でもするように答えてきた。
「これはもう俺の出番はないんじゃ…」
そう言いかけた時、翔琉はただならぬ気配に後ろを振り向いた。
その眼に拳銃を握りしめた蛇巳多の姿が飛び込んできた。
「くたばりやがれええええっ!」
怒声と共に蛇巳多が拳銃を構える。
その瞬間、蛇巳多の手から拳銃が消えた。
その拳銃は翔琉の手の中にあった。
「がああああっ」
ぐしゃぐしゃになった指を抱えて蛇巳多が絶叫する。
「サンキュー!」
ダイゴがカケルに向かって叫んだ
(今のがスキル加速な。覚えておいて損はねえぞ)
(焦ったあ~)
リングの言葉に翔琉は心の中に大きく息を吐いていた。
蛇巳多が銃を構えた時、考えるよりも先に体が動いていた。
その途端あたりの光景がスローモーションになったのだ。
(これが加速…って、地上ではスキルが使えないんじゃないのか?)
(さあね、そんなルール知らねえよ。俺様くらい高位な存在だと関係ないじゃねえの)
リングは全く興味がないという口ぶりだ。
(マジかよ…お前ってよっぽどイレギュラーな存在なんだな)
(イレギュラーじゃねえよ、俺らの種族だったらこの位当然だっての!)
辺りを見渡すと既に半グレたちは全員床に倒れ伏していた。
残るのは蛇巳多と物陰で震えている蛤だけだ。
「さて、あとはお前さんだけなわけだが、そろそろ降参しないか?」
「…ふ、ふざけんじゃねえ、誰がてめえなんかに…」
蛇巳多は右手を抱え、脂汗を流しながらも憎々しげに大悟を睨みつけている。
その時、こっちに向かって近づいてくるエンジン音が聞こえてきた。
それを聞いた蛇巳多の目に光が戻る。
「へ、ようやく来たぜ。おい、てめえらが調子に乗れるのもここまでだ!」
やがて倉庫の前に何台もの車が止まり、そこからぞろぞろと半グレ連中が降りてきた。
その数は百人ではきかないだろう。
どの手にも凶器が握られている。
「馬鹿め、さっき仲間を呼んでいたんだよ!」
そう叫んだ蛇巳多の左手には再び拳銃があり、その銃口がこちらを向いている。
(まだ持っていやがったのか!)
翔琉は再び加速しようとしたが時すでに遅く、轟音と共に銃口が火を噴いた。
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