32.第6階層藍エリア - 6 -

「マジかよ!」


 ダイゴが驚いてナイトライトの着ていたケープを掴んだ。


 そのはずみでケープがさざ波のような虹色の光を放つ。


「本当だ…てことは俺たちよりも前にこいつを発見してたってことなのか?」


 ナイトライトが小さく頷いた。


「見つけたのは偶然。第7層にいる時に死にかけて姿を現したこいつを発見したの。その皮をはいでケープにしたら完全な隠形ができるようになった」


「ちょ、ちょっと見せてくれないか?」


 興奮冷めやらぬというダイゴにナイトライトがケープを脱いで渡した。


「ほほぉ~、こいつが…」


 興味深そうにためつすがめつしていたダイゴはおもむろにそのケープを羽織った。


「どうだ?見えなくなったか?」


 翔琉たちは一斉に首を横に振った。


「駄目か~」


「たぶんこれは忍びのジョブじゃないと使えないんだと思う」


 ダイゴからケープを受け取ったナイトライトが着直しながら答えた。



「ジョブ専用アイテムってことか」


「そう、これがあるから私だってカケルの役に立てると思う」


「それはそれ、これはこれだよ。危険な目に遭わせることは絶対にできない」


 しかし翔琉は頑として聞かなかった。


「む~~~」


 ナイトライトの頬が膨れる。


 それを見て翔琉は諦めたように肩をすくめた。


「…わかった、じゃあこうしよう。危険なことは絶対にしない、これを約束できるなら手伝ってもらう、それでどうだろう?」


「それでいい」


 ナイトライトの顔がパアッと明るくなる。


「それからもう1つ条件がある、それはさっき教えた支援団体のところに行くか親御さんと話をすること、この条件を飲めるならナイトライトの参加を認める」


「む~~、…わかった、それでいい」


 不承不承ナイトライトが頷いた。


「ちょっと、本当にいいの?」


 ナナが翔琉に耳打ちしてきた。


「しょうがないだろ。ここで頑なに拒否したら機嫌を損ねて危険な行動に出てしまうかもしれない。この辺で妥協しないと」



「じゃあ話もまとまったことだし、地上に戻るとするか…って、やべえ!」


 あくびをしながら立ち上がったダイゴだったが、不意に耳と口に手を当てて後ろを振り向いた。


 何やらごしょごしょと呟いていたがやがて冷や汗を流しながら翔琉たちの方を向いた。


「すまん、ちょっと用事が出来たからこれで退散させてもらうわ」


「ちょ、報酬とかこれからのことは…」


「ああ、その辺は適当にやっておいてくれ!また後で連絡するわ!」


 言うだけ言うとダイゴは風のように去っていった。


「連絡ったって…まだID交換してなかったのにどうやって…?」


 翔琉は呆然と呟くしかなかった。


「まあまあ、そのうちまた会うこともあるだろうから、こっちはこっちで進めていようじゃないか」


 オットシが翔琉の肩に手を当てながら話しかけてきた。


「そ、それもそうですね」


 確かにやらなくてはいけないことがまだまだ山のようにあるのだ。


 

「とりあえずこの2体のモンスターを片付けるところから始めないと…」


「トカゲの方は私に任せて。やったことあるから」


 ナイトライトがそう言ってナイフを取り出した。


「お、おう。じゃあ任せようかな」


 ナイトライトが見事な手際でトカゲの皮を剥いでいく。


 伊達にダンジョンで生きていたわけではないらしい。


「ところでこのトカゲの新種申請はどうする?」


 オットシがトカゲを見下ろしながら尋ねた。


「一応私とダイゴが発見者になるという話だったけどナイトライトがもっと前に見つけていたわけだが…」


「私はいい」


 作業を続けながらナイトライトが呟いた。


「それもそうか。じゃあこのままオットシさんとダイゴが発見者になってもらうとして、申請するのはもう少し待ってもらえますか?できれば今の厄介ごとが片付いてからにしてもらいたいんです」


「わかった」


 オットシが翔琉に頷く。


「取れた」


 ナイトライトが剥いだトカゲの皮を高々と掲げた。


「ちょっと見せてくれないか?」


 その皮はダンジョンの光にあてると虹色の光を放って煌めいた。


(なあ、この皮を使って俺も隠形を使えないかな?)


 翔琉は心の中でリングに話しかけた。


(ああ?そんなの簡単だろ。解析スキルを使ってみろよ)


(解析?そんなのも使えるのか!)


(当然だろ。運び屋ってのは依頼されたものが何なのか知ってなきゃいけないんだからな)


(それもそうか)



 翔琉がトカゲの皮に意識を集中すると頭の中に情報が流れ込んできた。


(なるほど、これは所有者の意識と同調して取り込んだ電磁波や光、音などを反射しないようにできるのか。これなら使えるかも)


 再びトカゲの皮に意識を集中すると不意にその皮が見えなくなった。


 持っていた翔琉の腕も見えなくなる。


「うわ、凄っ!」


 それを見たナナが目を丸くして驚いていた。



「これは…本当に凄いな。触ればあるのはわかるのに本当に見えないぞ」


 翔琉が手に持った皮に触れながらオットシも驚愕している。


「忍にしか使えないと思っていたのに…」


 ナイトライトは少し悔しそうだ。


(まあこの階層程度だったら限られたジョブにしか使えないかもな。俺くらいになったら大抵の素材は問題なく使えるけどな)


 頭の中でリングがうそぶいている。


(なあ、これで全身を隠すことは可能なのか?)


(問題はねえだろうな。はみ出た部分は魔力で補えるだろうからな。あのガキだってそうやって姿を隠してたんだよ)



「これって地上でも使えるのかな?」


「使えるよ。何度か試したことがある」


 翔琉が尋ねるとナイトライトが頷いた。



「そうだ…ひょっとしたらこれは使えるかもしれない!」

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