27.第6階層藍エリア

「第5層は橙エリアだったのにすぐ下が藍エリアになってるんだ?」


 翔琉たちが現在歩いているのは第6階層の藍エリアだ。


 そこまで移動してきた…という訳ではなくオレンジ・ワンの近くにあった階段を降りるとそこが藍エリアだったのだ。


「このダンジョンは下の階層とエリアが一致してるわけじゃないからね。階段を下りたらすぐに藍エリアに行けるというのもオレンジ・ワンが人気である理由なんだ」



 先導していたダイゴが答えた。



「ダイゴさんってどの位の深さまで潜ったことがあるんですか?」


「ダイゴでいいって。それに敬語もなしだ。チームを組んだら年齢や経歴は関係なし、それが冒険者の良いところなんだからさ」


「わかりまし…わかったよ。じゃあこれからは敬語はなしで」


「そうそう、その方が俺も気が楽だからさ。それよりもカケル、さっきはよくあのスリを捕まえられたよな」


 ズンズンと歩きながらダイゴは更に話を続けてきた。


「ああ、あれ。なんか気になってたと言うか…偶然目に留まったというか」


「いやいや、さっきのは多分盗賊のジョブ持ちかなんかだったと思うぞ。おそらく隠形スキルを使ってたはずだ。まさか俺以外に気付く奴がいるなんて思わなかったからびっくりしたよ」


 ダイゴはそう言うと愉快そうに笑った。


「そういうものなんだ?」


(ま、中に俺が入ってるんだから当然だわな)


 リングが得意げに呟いてくる。


(お前そんなこともできるのかよ)


(できるというかレベルが違いすぎるんだよ。あんなの頭だけ隠して尻を出してるようなもんだぜ。見るつもりなくても目に入ってくるっての)



「確かにあたしも全然気づかなかった」


 ナナが悔しそうに呟く。


「私もだよ。カケル君が捕まえてようやく気付いたくらいだ。そばにあんな輩がいたことすら知らなかった」


 オットシがナナに同意する。


「おそらくレベル7か8の隠形を使っていただろうな。それが見分けられたってことはカケルはレベル8以上の追跡屋トレーサー狩人ハンターなのかい?」


「いや、俺は運び屋で」


「運び屋!運び屋のジョブ持ちなんて初めて見たぞ!ちょっと職痕マークを見せてくれよ!」


 翔琉が運び屋であることを告げるとダイゴが驚いたように翔琉の方を向いた。



「ほほう…これが…確かに初めて見る職痕マークだな。日本じゃ初めてなんじゃないか?レベルは…駄目だ、初めて見るからさっぱりわからん」


 半ば無理やり翔琉の職痕マークを確認したダイゴが首をかしげながら唸った。


「カケルってまだダンジョンに入ったばかりなんだよ。今日5層に来るまで3層までしか行ったことなかったんだから」


 ナナがおかしそうに付け足す。


「それ本当かよ!?あの隠形に気付くのはレベル3じゃ絶対に無理だぞ!どうなってるんだ!?」



「いや…それはまあ、そ、それよりもゲーミングクリスタルをどうやって探すつもりなのか教えてくれないか?何から何まで謎なんだろ?」


 突っ込んだことを聞かれそうになった翔琉は慌てて話題を変えることにした。



「ああそのことか。実を言うと目ぼしはついてるんだ。ゲーミングクリスタルってのは実のところモンスターの持つ魔石の可能性が高いんだよ。でもゲーミングクリスタルを持つモンスターは見つかっていない、それは何故かわかるかい?」


「うーん…隠れるのが上手いとか?」


「その通り!」


 翔琉の言葉にダイゴは大きく頷いた。


「いや、それってそのまんまじゃ…」


「でもその可能性が一番高いんだ。まあ俺の知り合いの受け売りなんだけどね。とにかくそいつはとんでもなく隠れるのが上手い可能性が高い。おそらく視覚に頼っていては駄目なはずだ」


「そんなこと言われてもじゃあどうやって探せば…」


「簡単だって。目で追わなかったらいい。たぶんカケルにもできると思うぞ」


「そうかなあ…」


(いや、この兄ちゃんなかなかいい線ついてるぜ)


 ダイゴの言葉は翔琉には俄かには信じがたいものだったがリングにとっては違ったらしく感心したように頷いている。


(ほらそこ、実際にいるじゃねえか)


(は?どこに何がいるって言うんだよ?)


 リングの言葉に翔琉はダンジョン内をきょろきょろと見渡したが何も見えない。


(だから見たら駄目なんだって。ほら、とにかく何か獲物を構えろよ。逃げちまうぞ)


(わ、わかったよ。そう急かすなよ)


 リングに言われるままに翔琉は腰に差していたナイフを引き抜いた。


(しょうがねえなあ、探知スキルだよ。頭の中に周囲の光景を思い描いてみろよ)


(こ、こうか?)


 リングの言葉に翔琉は眼を閉じて先ほどまで見ていたダンジョン内の光景を思い浮かべる。


 するとすぐ右側前方の壁に潜んでいるものが頭の中に現れた。


 人くらいのサイズのトカゲだ。


 壁に張り付いてじっと動かない。


(そんな馬鹿な?さっきまで影も形もなかったのに!)


(馬鹿、そっちを見るんじゃねえ!気付かれるぞ!)


 慌てて見ようとした翔琉の頭の中でリングが怒鳴り声を上げる。


(見ないで仕留めろ。位置はわかってるんだからその位できるだろ)


(わ、わかった。やってみる)


 翔琉は生唾を呑み込んでナイフを握りしめた。


 ゆっくりと右側に移動しつつタイミングを計る。


(今だ!)


 リングの合図と共にナイフをその見えざるトカゲに突き立てる。


 トカゲの頭に翔琉のナイフが突き刺さるのとダイゴの剣がその胴を貫いたのはほぼ同時だった。

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