28.第6階層藍エリア - 2 -

 ケェエエエエエエッ!!!!


 トカゲが断末魔の悲鳴と共に姿を現す。


「うわっ!?」


「きゃあ!何これ!?」


 その姿に気付いたオットシとナナが叫び声をあげた。


 翔琉とダイゴによってダンジョンの壁に磔にされたトカゲはしばらくもがいていたがやがてぐったりと動かなくなった。


「な…なんなんだこれは?突然現れたぞ?」


 完全に事切れたのを確認してオットシが恐る恐るトカゲに近寄った。


「おそらくこいつは新種だろうな。俺も見るのは初めてだよ」


 ダイゴがトカゲの傍らにしゃがみこんでナイフを取り出した。


 見事な手際でトカゲを解体していく。


「本当にこのトカゲは新種みたい。ダンジョンナビのデータベースにも載ってないよ!」


 スマホで写真を撮って画像検索をかけていたナナが目を丸くしている。


「だろ?…んで、多分こいつが…ゲーミングクリスタルの持ち主なんだ。…ほら」


 そう言ってトカゲの体内から抜き出したダイゴの手にはソフトボール大の虹色に煌めく魔石が握られていた。



「た、確かにこれはゲーミングクリスタルだ!でも何故このトカゲが持っていると?」


 オットシが魔石を確認して驚きの声をあげる。



「実を言うと俺も確証があったわけじゃないんだ。ゲーミングクリスタルってのは七色に輝く性質を持っているだろ?それがモンスターの能力を反映させたものだとしたらそのモンスターは体色を自由に変えられるのかもしれない、そしてなかなか見つからないということはカメレオンのように周囲の景色に溶け込んでいるからかもしれない、そういう予想があったんだ」


 トカゲの上に腰かけたダイゴが答えた。


「まあこれは俺の仲間からの受け売りなんだけどね。どうやら合ってたみたいだな」


「し、しかしこれほど隠れるのが上手いとは…私はレベル8探知が使えるのに2人が攻撃するまで気配すら感じなかった…」


「俺も見えてたわけじゃないからね。おそらくこいつは攻撃力が低い代わりに隠身に特化したモンスターなんだと思う。今まで見つかったゲーミングクリスタルはこいつらの死骸に残っていたのを発見していたんだろうな」


「確かにゲーミングクリスタルは今までモンスターを倒して獲得するトロフィー型の素材じゃなくて落ちているのを拾うピックアップ型の素材に分類されていた。それが間違いだったのか…」


 オットシが感心したように呟いた。


「たぶん探知レベル10…いやレベル20はないと気配を感じることもできないだろうな。そのレベルまでいった冒険者が第6層をうろつくわけもないから今まで見つからなかったんだろう」


 ダイゴはそういうと翔琉に興味深そうな視線を送ってきた。


「で、やっぱりカケルも気付いたわけだ。なんとなくそんな気はしてたんだけど、まさか場所までわかるとはね」


「い、いや…それはたまたま勘が当たったというか…」



「前から不思議だったんだけどカケルってほんと何者なの?ギガントカマキリを一人で倒しちゃうし、今回もこんなモンスターを見つけるし」


 ナナまで怪しげな目で翔琉の方を見てくる。



(やばい…このままではリングの存在がばれてしまう!)


(俺は別にいいけどな。つーか早くもっと下まで行ってくんねえかな?)


(馬鹿言うな!お前の存在がばれたらどうなるかわかったもんじゃないだろ!生きたまま標本にされたらどうすんだ!)



「そ、そんなことよりもそこまであたりを付けていたってことはダイゴもひょっとしてこいつを探してたとか?」


 翔琉は無理やり話題を変えることにした。


「ばれたか。実を言うと依頼があったんだ」


 ダイゴは拍子抜けするくらいあっさりと白状した。



「ゲーミングクリスタルに光学系の効果があることが最近の研究で分かったらしいんだ。その正体が魔石であることも判明してたんだけど、どのモンスターが持っているのかまではわからなかったからその正体を探ってくれという依頼があってね。なんでカケルたちに会ったのはちょうど良かったってわけだ」


「なるほど…」


「正体がわかってなかった以上、新種だとは思っていたけどね。で、どうする?とりあえず新種の発見者にみんなの名前を乗せておく?」


「いいんですか?」


 オットシが目を丸くして叫んだ。


「新種を発見したらなにか良いことあるんですか?」


「色々あるとも!まずはそのモンスターへの命名権が与えられる。ついでに歴史に名を残すことができる。それが人類にとって重要なモンスターであればなおさらだ。場合によっては講演会なんかに呼ばれることだってあるぞ!」


「新種を発見したら金一封とかはないの?」


 ナナが聞いてきた。


「うーん、それはないかな。なにせダンジョンの中は新種だらけでまだ全体の1割も発見できてないんじゃないかって話だし。今回のダイゴさんのように依頼を受けているなら別だけど…どちらかというとこれは冒険者の名誉の問題だね」


「うーん、それじゃあ私はパスかな。あまりそういので騒がれたくないし」


 ナナが手を振って答えた。


「俺も遠慮させてもらいます。今はちょっと目立ちたくないと言うか…」


 翔琉も申し訳なさそうに答える。


「そうなのか?まあ無理強いはしないけど…オットシはどうする?」


「私は喜んでその名誉に預からせてもらうよ。こういうのはタイミングだからね。娘にも自慢できるし」



「それじゃあ決まりだな。発見者は俺とオットシ。でも発見時には誰それが一緒だったと報告しなくちゃいけないから、それだけは勘弁してくれよ。公表する時には名前を伏せてもらうようにするからさ」


 ダイゴの言葉に翔琉とナナが頷く。


「じゃあこれで一件落着って訳ね。それにしてもまさかこんなただキラキラするだけの魔石にそこまでの価値があるなんてね」


 ナナがもの珍しそうに魔石を手でこねくり回している。


「価値なんてもんじゃないぞ。ここだけの話だけどゲーミングクリスタルは光学迷彩や新型ホログラフィックの素材になることがわかってるんだ。おそらく近い将来その価値はグラム当たりで1万倍以上になるはずだ」


「うっそ!」


 ダイゴの言葉に驚いたナナが思わず魔石を取り落とす。


「ひえええ、危ない危ない」


 拾おうとした瞬間、突然その魔石の上に影が出現した。


 まるで何もない空間から突然現れたようだった。


「誰だ!」


 影は魔石を拾うなり再びかき消えた。


 しかし翔琉はその姿をはっきりと捉えていた。


「あの子は…」


 それは第5層で出会ったスリの少女だった。

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