2度目のダンジョン
17.翔琉のアパート
(生きてたってなんだよ、俺が死ぬわけねえだろ!)
(いや…だって今まで返事がなかったし、ダンジョンの生物はこっちに来たら必ず死ぬって聞いてたから…)
(ハッ!そりゃ低層に住んでる低俗モンスターの話だろ。俺みたいに高等な生き物になるとあんな
翔琉の言葉をリングは鼻で笑い飛ばした。
(じゃ、じゃあなんで今まで返事しなかったんだよ!)
(ああ、そりゃちょっと寝てたんだ)
(寝てただあ?)
(そりゃ俺だって睡眠くらいとるっての。こう見えて結構繊細なんだぜ?休まないとお肌が荒れちゃうしな)
(なんだそりゃ)
翔琉はため息と共にベッドに倒れ込んだ。
まさかこっちに戻ってきてもまだこの天使に悩まされることになるとは…
(それで、いきなり話しかけてきて何の用だよ。できたらさっさと俺の身体から出てってほしいんだけど)
(そのことなんだけどな…)
リングが話を続けた。
(やっぱり今の俺の力だけじゃお前の身体から離れるのは無理みたいだな)
(マジかよ…)
翔琉は再び大きくため息をついた。
予想してなかったわけではないけどそれでもはっきり言われるとやっぱりショックだ。
(どうも俺自身がお前の魂と融合しちまってるっぽい。こいつを解くには神に頼むしかないだろうな)
(神?あっちの世界には神がいるのか?)
(こっちの世界の概念で言うなら神と表現するのが一番妥当だからそう言ってるだけだけどな。要するに俺ら遍く生き物たちの上位に位置する存在だな。あ、ついでに言うとこっちの世界のことはお前の魂と結びついたことで理解できてるからいちいち説明しなくていいぞ)
(なんだよそれ、勝手に人の心を覗き込んでるのかよ!)
翔琉は再びがばっと身を起こした。
(心を読んでるわけじゃねえよ。ただこっちの世界でお前の認識してるものを俺も認識できてるってだけだ。試してみたけどお前の記憶は読めなかったし身体も操れなかったぞ)
(試したのかよ!)
(まあそうカリカリすんなって。こっちだって楽じゃねえんだぜ?このままじゃ自由に動くこともできねえし見るのも聞くのもお前の感覚を頼りにしなくちゃいけねえんだ。大変なのはお互いさまってことよ)
(クソ!なんでこんなことになっちまったんだ!)
翔琉は苛立ちに任せて枕を殴りつけた。
(そもそもお前は何者なんだよ、999層に住んでるって言うならなんであんなところにいたんだ?)
リングからの返事はない。
(おい、黙ってないで何とか言えって。俺とお前は一蓮托生なんだろ。だったらせめて事情だけでも話してくれ。でないとこっちもどうしていいのかわからないんだ)
(いやあ…それはちょっとなあ…)
さっきまで威勢の良かったリングの歯切れが急に悪くなった。
(黙ってたってしょうがないだろ。お互い元に戻るためには協力し合わないといけないんだ。それともお前はこのまま俺の身体の中でいいってのかよ。言っとくけど俺はごめんだからな)
翔琉は話を続けた。
(なにか言いにくい事情があるみたいだけど今よりも悪いことなんてないだろ。俺だってこの状況を解決できるんなら協力するからさ。話すだけでも話してくれよ)
(…追放、されたんだよ)
しばらくしてリングが渋々とと漏らした。
(は?)
(だから、さっき言った神に999層から追放されたんだって)
(なんだそれ?)
リングの言葉に翔琉は耳を疑った。
(俺だって知らねえよ!いきなり呼び出されてお前は最下層行きだといわれてそのままズドンだよ!元の伝令天使に戻してほしけりゃ自力で戻って来いときやがる。ちょっと万能の力を持ってるからって酷すぎねえか?)
(…お前…何やらかしたんだよ)
(別に大したことはしてねえって。ちょっと頼まれた伝令を後回しにしてたらなんか戦争が起こりそうになってただけだっての。まったく、大事なことは人に頼まねえで自分で伝えろっての)
(お前…)
翔琉は頭がくらくらしてきて枕に顔をうずめた。
(俺たち天使は下層に行けば行くほど力を失っちまうんだよ。第1層からなんとか第2層まで上がっていったところで力尽きちまったんだ。そこでお前に出会って取り込まれちまったという訳だ)
翔琉に構わずリングは話を続けている。
(まあそんなわけだからさ、ちょっと俺が999層まで戻るのを手伝ってくれねえかな。そこまでいったら神の住む1000層はすぐだからさ、そこで事情を言えば俺とお前を放してくれると思うんだ)
「ふざけんな!」
思わず翔琉は怒鳴っていた。
「話を聞いてみたら全部お前のせいでこっちはとばっちりじゃないか!1000層まで行けだあ?馬鹿も休み休み言え!」
(なんだよ!さっきは協力するって言ったじゃねえか!)
「それとこれは話が別だ!」
「うるせえぞ!今は2時半だぞ!」
隣から怒鳴り声が飛んでくる。
(仕方ねえだろ!あの時の俺はほとんど力が残ってなかったんだからよ。気が付いたらお前の中にいたんだよ!俺だってすき好んでこんな魔力も使えないしょぼい体に入った訳じゃねえっての!)
(しょぼいだとお!?)
二人の口論はいつ果てるともなく続いていった。
◆
「ふあ~あ」
大きなあくびが翔琉の口から洩れる。
(だらしねえなあ。仕事中なんだろ)
リングの声が響いてきた。
翔琉が今いるのはバイト先のスーパーのバックヤードだ。
普段はここで品出しをするのが翔琉の仕事なのだ。
(誰のせいでこうなったと思ってるんだ)
翔琉は心の中でぶつぶつと呟いた。
結局あれから夜明けまでずっとリングと罵り合いをしていてほとんど眠れなかったのだ。
(それにしてもなんでわざわざ労働なんてしてんだよ。昨日の探索で結構もらってんだろ?こんな面倒くさい仕事ふけちまおうぜ)
(お前なあ…)
翔琉はため息をついた。
(お前と違って俺は真面目なんだよ。この前の金は金、仕事は仕事だ。わかったら邪魔しないでくれ)
(へいへい)
まったく、とため息をつきながら翔琉は重たいペットボトルの箱を持ちながら売り場へと出ていった。
「いよう、翔琉ちゃんじゃないの。ちゃんと労働してる?」
そこへ馴れ馴れしい声が聞こえてきた。
聞き覚えのある、というかむしろ聞きたくない声だ。
「蛤先輩…」
うんざりしたような顔で翔琉は振り向いた。
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