第6話

「うそ……できてる……?」


 妊娠検査薬に浮かび上がるマーカー。

 それは私のお腹の中に一つの命が宿っていることを示していた。

 全然、気が付いていなかった。

 ずっと、子供が欲しいと思っていた。けれど、なかなか子供が出来ず、やきもきし、精神が乱れることもあった。けれど、この時間停止の騒動のせいでそんなことを考える余裕は完全になくなっていた。時間の流れが曖昧であったことも手伝って、生理が来ていないことにも気が付いていなかった。

 私は自分の腹をそっと撫でる。

 ここに私の子どもが居る。

 修司との間の子どもが。

 そう考えた瞬間、私の涙腺は再び壊れてしまう。

 私はもう少しで取り返しのつかないことをしてしまうところだった。


「ごめんね、ごめんね……」


 私は床にへたり込んで自分のお腹を抱きながら、何度もそう言って謝った。

 さっきの吐き気——悪阻はきっと、お腹の中のこの子が私を止めてくれたのだ。


「お母さん、あなたを絶対に産むからね……」


 陽も登らない暗い世界。

 私は強く、強く、心に誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る