第4話

「もし、タイムリープで子供のころに戻ってしまったらどうする?」


 修司はときどき、こんな突拍子のない質問をしてくることがあった。

 読書が好きで、大学生のとき、文芸サークルの所属していた彼はこういう物語めいた仮定を話したがる、少しふわふわした部分があった。

 私はそんな彼に付き合って、真剣に考えてみる。


「うーん、もうちょっと勉強して、別の職業に就こうって思うかな」


 看護師の仕事は私にとって精神を摩耗させるやすりだった。朝から晩まで病気の患者の世話をし続ける。理不尽な罵倒を受けることもあるし、時には患者の死というものに直面させられることもある。患者からの感謝の気持ちが嬉しいという人や、人を助けることに意義を見出す人も多いようだけど、私には到底そんな前向きな捉え方はできなかった。もし、今からだって、別の職業に就けるなら、そちらに鞍替えしたいと思っているくらいだ。


「なるほどな、里香らしいな」


 そう言って、修司はからからと笑う。

 そのあとに、彼は言った。


「俺だったら、まず、里香を探しに行くかな」

「私?」

「ああ、子供のころまで戻ってしまったら、俺たちってまだ出会えてないってことになるだろ?」


 確かにそれはそうだ。

 私たちは大学生のときに出会った。同じ文芸サークルに所属していた私たちは何となく付き合い始め、社会人になってからも、そのままずるずると一緒に居た。

 だから、子供のころまで時間が巻き戻ったなら、私たちは、まだ互いの顔すら知らないという状態になっているだろう。


「だから、俺は里香を探す。探して、『俺がおまえの未来の彼氏だ』って言うかな」

「なにそれ、ヤバそう」


 そんなことを言っている子供の修司を想像して、私は思わず噴き出した。

 そして、その後に私も言う。


「じゃあ、私もそうしよっかな」


 私の部屋のソファの上。彼の肩に首をもたげかけながら言う。


「もし、時間が巻き戻ったら、そのときはまず修司に会いに行く」

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