第19章 制度の内面化

1 そして、物語の共有をより確実にするのが、法律や政治制度、経済システム、教育といった制度です。

2 制度は私たちを外側から規定します。つまり、行動をコントロールするのです。例えば、法律は何らかの行為を禁止します。禁止する根拠は価値観です。価値観が異なる国では法律も当然異なります。

3 ですから、制度は物語を共有していない者同士であっても、外面的に共有しているかのようにさせることができます。例えば、ある人が復讐は善だと考えていても、法律で復讐が禁じられている場合、おそらく価値観に関係なく復讐しないでしょう。

4 逆に、制度が私たちに物語を共有させることもあります。制度が人間を適合させようとするのです。例えば、ある経済システムの下では、利潤を増やすことが善であり、利潤を増やせない人間には価値がないと見なされます。

5 このような文化や制度は、最終的に警察や軍隊、私兵組織といった暴力によって強制され、また、反する者は排除されるのです。

6 警察は国民に対し法律の遵守、秩序の維持を、暴力を根拠として強制する存在です。軍隊は外国に対して自国の利益を貫徹するための存在です。その銃口が自国民に向かう場合もあります。

7 ある個人や団体の利害を強制しようとする私兵組織に比較して、警察や軍隊の存在は公共的であり、私たちの日常にとって有用であるように見えますが、その本質は以上のようなものです。ですから、社会が不安定になり、物語の共有が難しくなる非常時にはその本質が露呈します。

8 このような文化や制度、暴力は、私たちに時代や地域によって異なりうる人為的であり幻想であるものを自然で必然的なものであると錯覚させて依存させる力があります。

9 そして、誰かの自己実現の手段にすぎないものを目的であるかのように思いこませることで束縛し、抑圧し、排除し、操作しようとすることが多いのです。

10 それでも私たちは、それらを受け容れ内面化してしまいます。なぜならば、不安定で不確実な現実ではなく安定した確実な世界という夢を見ていたいからです。

11 夢を見ている間、私たちは恐れを忘れることができるからです。

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