第18章 複雑性と文化

1 しかし、その一方で、私たちは世界や他者との関係を離れて存在することは出来ません。

2 つまり、生きていくうえで、何が起こるか分からない世界や、何を考えているか、何をしてくるか分からない他者というリスク(複雑性)から逃れることは出来ません。

3 そして、このリスクのために、私たちは常に恐れにさらされています。

4 そこで、恐れがリスクを減らそうとする、つまり、自己を正当化し、現実をコントロールしようとする欲望を生み出し、それが現実との桎梏となって、悩みや苦しみを惹き起こすのです。

5 この悩みや苦しみとは、その現れ方は様々ですが、結局その本質は思い通りにならない、コントロールできないということ(不如意)に他なりません。

6 ただし、欲望そのものが問題であるのではありません。欲望は生命が共有する自己保存の本能、生への衝動に由来するものであり、さらに遡れば宇宙全体の生成活動のバリエーションであるといえます。ですから、それ自体は問題になりません。問題は、それが恐れによって過剰になってしまうことです。

7 恐れによって、人は自己正当化とコントロールの手段として、自分に(あるいは、集団に、あるいはほかの誰かに)都合の良いような様々な基準(価値観)を設けて物事を裁き、それによって、思い煩うようになります。

8 誰かにとっての真偽、善悪、利害、美醜、賢愚、浄穢、貧富、正邪のような価値観は体系化され、それを自然に身につけさせる、慣習や道徳、宗教と言った文化となります。

9 その誰かとは例えば王侯貴族、エリートといった少数とは限りません。大衆のような多数の場合もあるでしょう。注意すべきは誰かの数ではなく、排除される別の誰かが存在するということです。

10 文化とは、いわば共有された物語であり、私たちは共有することで他者と安定したコミュニケーションを取れる一方で、その物語によって思いや考えが左右されます。

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