第16章 世界からの分離

1 物語は、有史以前の言語や古代以来の神話を初めとして、宗教・道徳・法律・国家・貨幣などの形態をとって共同体内部で共有され、多くの人間を同じように動かす力をもつようになりました。これが文化や制度です。

2 文化や制度は、私たち人間の動物的な弱さを補い、新たな力を与える一方で、私たち人間からあたかも独立して存在しているようになることで、私たちを束縛します。

3 例えば、人間は言語を獲得したことにより、情報を整理し伝達し共有できるようになりました。一方で、知覚や思考を言語によって制限されます。また、私たちは言語を自由に変更することができません。

4 あるいは、言い古された例えですが、交換の潤滑化を促すための発明である貨幣は、それによる生活水準の向上が目的であったはずですが、今ではそれ自体を獲得することが経済活動の目的となっているということも挙げられるでしょう。

5 それでは、なぜ人間は文化や制度を生み出したのでしょうか。

6 人間は理性や想像力によって、自分とそれ以外を分け、物事に名前をつけて、本来一つながりである世界を分割し、そして、それを繋ぎ合わせて推理するようになりました。これが世界からの分離です。

7 人間は分けることで色々なことが分かるようになりました。

8 例えば、自然現象の原因や周期、動物の行動とその対策法、あるいは、他人の考えなどです。それは確かに集団で生存していくためには必要なことです。

9 自然現象の原因や動物の行動を推理できるようになれば、あらかじめ対処することができますし、他人の考えが理解できれば、コミュニケーションもより潤滑に行なわれるからです。

10 特に人間は他の動物に比べて肉体的素質や能力に優れていません。体毛も薄く、鋭い爪や牙も持ってはいません。嗅覚や聴覚もはるかに劣っています。

11 そのような不利な点を補うという点で、理性や想像力が発達し物語を共有できた人間が子孫を残したというのは理解できます。

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