第15章 現実からの解放
1 それでは、私たち人間とその他の生命との違いは何に求められるのでしょうか。
2 古来、人間と他の生命の大きな違いとして理性の存在が挙げられてきました。
3 概念、いわば、ものの名前を用いて物事や真偽を判断し推理する理性は人間特有の能力であるとされます。人間特有ということで言えば、これに想像力を加えることができるでしょう。
4 植物には光に向かう性質のように外部環境の変化に対する感受性があります。
5 動物には本能があります。本能に基づく行動として、例えば、クモは学ばずして正確に網をつくることや、サケは自らが孵化した川を遡上することが挙げられます。
6 また、チンパンジーといった動物の種類によっては、動物にも条件反射のような連合的記憶や、何かの目的のために目の前の道具を使用するような実践的な知能が認められるといいます。
7 しかし、それらの能力と、人間の理性や想像力との間には大きな違いがあります。
8 それは、植物や他の動物は、その環境世界に拘束されているのに対して、人間は世界から自分を分離し、自由でありうることです。
9 その証拠に、人間は、まだ起きていないことを推理し、現実ではない出来事を想像して、自由に物語を作ることが出来ます。
10 物語とはこの場合シンボル(象徴)のシステムを意味しています。物や行為、出来事などを「何か」の意味を有するものとして、つまり、シンボルとして表わし、このシンボルを通して、実体のない「何か」の存在を指示するシステムです。
11 これが動物の実践的知能との大きな違いであり、私たちはこれによって現実や環境の束縛から解放されたのです。
12 何かを全体に構造づけられた具体的なそのものではなく、シンボルとして認識することによって、私たちはそれを全体から分離できるようになるからです。
13 そして、対象を全体から分離することで自らも全体から分離できるからです。それはつまり現実からの解放です。
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