第10章 創造と実践

1 このように、常に自らを創造しつつあることを自覚する時、私たちは自由であることの意味を知ることができます。つまり、与えられた環境において主体的に自己を創造し、その環境も同時に創造するということです。

2 ここに実践の積極的な意味があります。単なる生存や自己表現のためのコミュニケーションや労働ではなく、宇宙を新しく創造していくはたらきとしてのコミュニケーションや労働ということです。

3 そして、それらを通して自らも創造していくのです。他者や自然との交わりによって、自らも新しく創造されていくのです。

4 このような他者に対する実践である行為や、自然に対する実践である労働は、私たちにとって自己を創造し環境を創造することです。つまり、宇宙を新たにすることです。

5 行為においては、私たちは他者との新たな関係を創造します。そして、他者とのコミュニケーションを通して、自覚を深め、考えや関わり方を見直し、自らを新たに創造します。

6 例えば、それまで対立していた相手に挨拶することで新しい関係が生まれます。もちろん、うまく行くかどうかは分かりませんが、相手の関係は新しくなります。また、相手の反応によって、自分の挨拶や態度について反省し、その分だけ新しい自分になります。

7 労働においても、私たちはその対象である自然や物体との関係を新たに創造します。そして、対象を通して、自らの知識や能力の限界に気づき、自らを新たに創造します。

8 例えば、耕作とはただの空き地を畑にすることで、土地との新しい関係を作ることです。また、何かの作業をしていて上手く行かない時には、作業の対象についてよく理解していないことや自分の技術力の限界について自覚し、理解を深め技能を研鑚しようとするでしょう。

9 このように、私たちは実践を通して自己と環境とを新たに創造する能動的存在でもあるのです。

10 ですから、環境は私たちを鎖につなぐ牢獄ではありません。望ましいものであろうとそうでなかろうと、現在の環境、境遇はただの運命の所産ではなく、自ら創造したものでもあるからです。ここに、環境に対する自らの責任もあります。

11 すなわち、私たちはすべての責任を環境に帰することはできません。私たちは被造物であると同時に創造者でもあるからです。

12 この創造者としての自覚に立つとき、私たちは自由です。すなわち、自らが願う世界を創造できるという希望とともに生きられます。

13 このように、実践において、宇宙の創造と自己表現は一致します。

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