第4章 生起する過程

1 それでは、まず私たちが信知すべき知識とは何でしょうか。

2 それは、万物は一体である、ということです。これこそが最も大切な知識です。私たちの復活に必要なすべての知識はこの知識を源として展開されます。

3 逆に、これを信受し知解しなければ、他の知識についても知解することはできません。

4 では、万物が一体であるということは、どういうことでしょうか。

5 これは、すべては様々な要素・条件の組み合わせによって現われ、それぞれが更に繋がりあい、それぞれの要素・条件となって、互いを存在させているのであって、決して分けることができない、ということです。

6 しかし、私たちはすべてを他から独立し、同一性を保持しつづける「実体」として認識してしまいます。それによって、私たちはすべてを分けてしまい、それを現実であると考えてしまいます。

7 これが大きな問題の源となります。後述するように、この存在に対する誤った認識が、私たちを傲慢と恐怖による苦悩へと導くのです。

8 ですから、「実体」という思い込みを離れて、具体的な現実を正しく観察する必要があります。

9 では、具体的な現実とはどのように観察されるのでしょうか。

10 すなわち、具体的な現実においては、すべては生起する過程です。例えば、巨視的なレベルでは、一見変化が分からない山や海、そして、空の星も一瞬として同じであることはなく、刻一刻と変化しています。

11 また、私たちが肉眼では認識できない微視的なレベルでも、分子が動き回っており、また、私たちの肉体において細胞が日々生滅(しょうめつ)を繰り返しているということは、現代の科学がこれを明らかにしています。

12 そして、あらゆるレベルにおいて、それぞれがお互いに影響を与えあって変化しているのです。変化とはつまり新たな生起ということです。

13 例えば、机の上にあるコップは、机があってそこに留まり得ているのであり、お互いに作用しあって存在しています。また、机やコップは誰かが置いたものであることが前提とされます。

14 この場合、机はそれを構成するものが机としての在り方と保ち続ける過程であり、それはこの場合コップの存在という過程や人間のコップを置くという過程と邂逅しながら生起します。

15 いわば、机がコップや人間と出会いながら自己を主体的に形成しているのです。

16 ですから、コップや人間と出会う前の机は、コップや人間とともに出会った後の机へと変化しているのであり、出会った後の机はコップや人間と分けることができません。

17 机と同様に、コップは机や人間と出会うことで新たに生起し、人間もまた机やコップと出会うことで新たに生起します。いずれもそれぞれが主体的であるという点では同じです。

18 このように、一切は互いに関わり合いながら、常に新たに生起しつつある過程であるのです。

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