【勇者Side】王城への帰還
なんせアイツは今や指名手配犯だけでなく、その身に魔王を宿しているのだから。そんな状態で人間界を歩いてみろ、あっという間に牢獄行きになるに違いない。魔王も勇者と同じ内容の加護、つまりは勇者以外に殺される事はなく、老衰で死ぬことも無い体になっているというのであれば、奴は未来永劫牢獄で過ごすことになる。
それは当の本人が一番分かっている事だろう。つまり、アイツは魔王をその身に封印した時から人間界へと戻らず、魔界に骨を埋める覚悟をしているはずだ。
約束を交わした本人がいなければ、それを違えたとしても発覚するには時間がかかる。人間が立ち入る機会の無い魔界に居る奴にまで伝わるのには尚更時間を要するだろう。その時間で俺は奴を殺し、いまから吐く嘘を実現させようと企んでいた。
今から向かう王城にて『俺が魔王を倒した』という虚偽の報告を国王にし、いずれアリシア達が戻ったら密かに一人で魔界へ趣いては枕を高くして眠っている奴の心臓に聖剣を突き刺して殺す。
これで俺の願いは叶う。世界を救った英雄と言う名声と、フェレール王家の一員という身分。輝かしい未来は手を伸ばせば届く所まで迫っていた。俺はそれを手に入れる為に、王都へと歩き始める。
不思議な事に、王都までの道のりで魔物に会うことは無かった。ついこの前までは数歩の内に会いまみえる事など珍しく無かったというのに。不思議な事もあったものだとさして気にも留めず、出発した時とは打って変わって人でごった返している大通りへと足を踏み入れる。
昼前と言うこともあり、賑わっている大通りを歩く人々は、俺の姿を認めると囁くような声で色々な憶測を語る。
「勇者だ……なんで仲間も連れずに一人で?」
「まさか勝てない敵が出たから仲間を囮にして……」
何故か悲観的な憶測が大半を占めていたため俺はそれを塗り替える為に高らかに宣言する。
「皆聞いてくれ!魔王を討伐したんだ!もう魔物に怯えて過ごさなくてもよくなったんだ!」
その言葉を受けて群衆は互いの顔を見合わせ、先程とは真逆の言葉を掛け合っていた。
「おい聞いたか?ついにやったみたいだぜ!」
「今日になって魔物が出なくなったのも勇者のおかげか!助かった!」
俺の周りには人が押し寄せ、次々と安堵のため息と感謝の言葉が投げ掛けられた。俺はその称賛を一身に浴びながら王城へ向かうためにゆっくりと進んでいった。
やっとのことで王城へ続く階段へとたどり着くと、周囲を取り巻いていた人々は自ずと離れていった。俺が国王へ吉報を知らせる為にここへ来たことが分かったからだろう。彼らの視線を背中に浴びながら一段、また一段と階段を昇ってゆく。
一段一段を期待と共に踏みしめて、やっとのことで昇りきる。そこには城への大扉と守衛が居たが守衛の一人――向かって右に居る方だ――は俺の顔を見た途端に敬礼をし、もう片方はこれまた迅速な動作で大扉を開けてはハキハキと俺に告げた。
「この度は魔王討伐の任、お疲れ様でした!国王陛下がお待ちです!どうぞお入り下さい!」
俺は二人にありがとうと感謝を述べて城へと入る。案内役の先導に従って王の待つ広間まで足を運ぶと、そこには満面の笑みを湛えた国王が機嫌の良さそうな声で俺を呼ぶ。
「おお!待ちわびていたぞ、この報告を聞く日をな!さぁ、儂にそなたの言葉で聞かせてくれまいか?」
俺は王座に座っている国王の前まで歩みを進め、今から報告する任を命じられた時の様に跪き、下を向いて口を開く。
「……私が魔王を討伐して参りました!他の仲間に関しては後程合流すると申していた為今はここにおりません!」
「うむ!その言葉が聞きたかった!そうだな……仲間がここに到着するまで武勇伝でも話してくれるか?今までの旅程は半日で語り尽くせる程短くはなかろう?」
「はい!」と返事をしようと顔をあげると、俺と国王の間に転移魔法の陣が生成される最中だった。それから数秒も経たない内に陣は紫の光を放ち、それから出てきた仲間たちを見て俺は目を疑った。
ロズ、アリシア、エルトの三人の格好は、今さっきまで激闘を繰り広げていたかのようにボロボロだった。顔には小さい切り傷がついており、装備にもそれは及んでいた。特に顕著なのはロズで、金属の胸当てには袈裟懸けに大きく深い傷跡が残っていた。それはまるで強大な敵に付けられたかのような傷だった。
仲間たち三人の転移が終わっても、魔方陣は消えずにその場に留まっており、突如として転移の合図である光を放つ。次に転移してくる人物はもう奴しか居ない。
漆黒の外套に、赤黒い王冠。頭髪と同じ色の黒い眼差しは、跪く俺を見下していた。
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