【勇者Side】真夜中の邂逅
俺は少しでも強くなるために、魔物を探して山道を駆け回っていた。幸いにも今日は満月なので明かりの心配はない。まぁ、そうでなくても『灯の魔法』で照らしてやれば少なくとも足元を木の根にとられて転ぶことは無くなる位には明るくなる。
ともかく、俺は魔物を探しているのだが半刻ほど駆けずり回っても一匹すら見つけられないでいた。まるで、何かに怯えて逃げ出してしまったかのように。
そんなことを考えていたその時だった。突如背後から鋭い殺気が俺に向けられていることを初めて理解する。だが、その圧は朝感じた魔王の物よりかは幾分か軽く、なんとか退けられるだろうことを示していた。
ここで迎撃するには些か足場が悪い。日が高い頃に通った際には木立が開けた、小さな広場があったはずだ。そこで奴を迎え撃つ。
広場に到着すると、警戒をしながらも息を整える。今の今まで駆け回っていたため、少々息が荒かった。二、三度深呼吸をしながら剣を抜いて迎撃準備を整え、
殺気の主は真っ直ぐこちらに向かってきていた。次第に近づいてくる足音と、鎧が擦れる軽い金属音。それは俺の脳裏に嫌な記憶を浮かばせる。幾度と無く敗北した、あの甲冑の事だ。銀色で装飾もなく、至ってシンプルな見た目はその強さに釣り合わなかった。
足音が近づき、朧気ながらもその居場所を探れるようになった瞬間、俺は
そして、木立から姿を現したのは――金の装飾を施した甲冑だった。
それは左手を使って流れるような所作で腰の
その動作に応えて俺も右手に持つ両刃の片手剣を相手に向ける。奴との距離は三歩半。もう魔法の間合いでは無くなっていた。
先に仕掛けたのは俺からだった。その距離を詰めると同時に右手を払うようにして剣を振り抜いた。狙いは刀身の中間、そこから折ることで使い物にならなくさせようとした。
だが、その目論みは失敗に終わる。目の前からは
確かに俺の目論み通り俺の剣は奴が縦に構えた
「勝負あり、といったところだな」
目の前の甲冑が突如言葉を発したことに俺は驚いた。先日までの戦闘で甲冑は喋らないものという先入観があったこともそうだが、何よりその声が女性のものだったことが衝撃を大きくした。
その間にも剣を通して力比べをしていたが彼女の剣はビクともしない。変則的な鍔迫り合いを大きく飛び退くことで中断させ、再度
再度横向きの稲光が甲冑に向けて落ちる。だが、彼女は振った
もはや打つ手はない。戦意を喪失しかける俺に、彼女は剣を納めて意外な一言を投げ掛けて来た。
「なかなか筋がいい。貴様が望むのならば稽古をつけてやってもいいぞ」
――――――――
「そもそもお前は誰だ?何故そのような芸当が出来る?俺にも出来るのか?」
意外な形で戦闘が終わり、俺は混乱した頭の中を全てぶつけることにした。だが、帰ってきた言葉は一つだけだった。
「貴様が持っているその剣で、私に一撃でも当てられたら教えてやる。その間私は攻撃しない」
「上等だ」
俺は挑発とも呼べるその提案に短く返事をすると共に前方へ躍り出る。半ばやけになったような調子で繰り出した連撃を、彼女はその場から動かず
当てさえすればいいのだろう、と考えて放った突きに至っては剣の腹を弾かれて方向を変えられる始末だった。休憩を挟むために攻撃の手を止める。肩で息をする俺とは対照的に、彼女の発する言葉には息の乱れ一つすら見えなかった。
「もう終わりか?」
「稽古をつけるって話は……どうなった……」
息も絶え絶えながら発した俺の質問に彼女は応える。
「何故そんなに強さを求める?人の身にしては桁外れの実力をすでに持っているだろうに」
「その言い方……やっぱり魔族の類いかよ……俺は魔王を倒すために選ばれた。だからその使命を果たすために強くなる」
「そうか。倒すべき相手に教えを乞うとは、なりふり構っていられないようだな?」
兜のせいで彼女の表情は見えないがその声から愉しそうであることは分かる。その態度に若干ムカつきつつも俺は返事を返す。
「ああそうだ。俺はこの旅を絶対に成功させなければならない。人類の為でもなく、世界平和の為でもない。俺が歴史に名を残す、その為に」
その言葉を聞いた彼女は何も言わなかったが、なんとなく笑っているような、そんな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます