【勇者Side】女子会その2

 私が何故エルトさんから嫌われているのか、その理由は彼女はカテラの事が好きだったからだそうです。


 ロズさんが口を開きます。

「エルト嬢。済まないが話が見えないからもう少し説明してくれないか」

 私もうなずいて続きを促すと彼女は私の左隣に座って説明を始めました。


「端的に言うとアリシア先輩が恋のライバルだから距離を取っていました」

「お?アリシア嬢からカテラを奪おうとするとはエルト嬢もやるねぇ」

 ロズさんがにやけながらこちらに投げかけます。

「なっ!?う、奪うって……私たちは別に付き合ってなんか……」

「よくそんな事言えますね。研究室に籠ったカテラ先輩の様子を毎日見に行ってた癖に。気づいてなかったんですか?先輩たち付き合ってるって噂されてましたよ?」

 初耳の噂に顔が熱くなる。これはきっと入浴中だからです。きっと。


「ほぉー。カテラと別れるまでは一週間しか共に居なかったがオレから見たら恋人同士にしか見えなかったぞ。カテラの反応は冷めてたけどな」

「ほら、ロズさんもこう言ってますよ?そろそろ認められては?」

「う、ううううう……」


 ロズさんの要らない援護により追い詰められます。何も言葉が出てきません。ここはエルトさんがカテラのどこが好きなのかを聴いて反論を練る時間を作りましょう。


「と、ところでエルトさんはカテラのどこが好きなんですか?」

「そうやって話題変えようとしても無駄ですよ」

 エルトさんはじっとりとした目で私を見ながら言いました。

「せっかくだから教えてあげます。でも、アリシア先輩もどこが好きなのか教えてくださいね?」

「だ、だから私はそんなんではなくて……」

「そう、あれは私が初めてカテラ先輩に会った時でした…」

 

 私の言葉を無視して彼女は語り始めます。


「日課となっていた魔法の研究がひと段落ついたのでしょう。カテラ先輩は中庭のベンチに座っていました。事前に特徴を両親から聞かされていたのでその人がカテラ先輩だと一目でわかりました。いや、特徴を聞かなくても分かったでしょう。纏っている雰囲気、『俺は魔法に人生を懸けているのだ』と言わんばかりの狂気染みた信念が醸し出されているのですから。堪らず声を掛けますが、返ってきた言葉はこうでした」


『誰だ君は?』


「魔法学院にいる生徒、そうでなくとも魔法使いなら、私がどんな人物なのかは分かってます。先輩はそんな私をまるでただの人を見るかのように私を見てきたのです。レイノール家の『始祖の血』を引く私相手にそんな目を向けてきたのは先輩が初めてでした。『レイノール家のお嬢様』でも『魔法学院創始者の子孫』でもなく、『私』を見てくれる目。つまり、好きになった理由は特別扱いせずに見てくれることです」


 少し顔を火照らせたエルトさんが語り終えると、ロズさんから質問が飛んできます。


「『始祖の血』とかいろいろ分からない単語が出てきたが、話を聞く限りエルト嬢はかなりいいところのお嬢様なのか?」

「ええ。魔法使いで『レイノール家』を知らない人はいません。先輩を除いてですが。特に有名なのは魔法学院の創始者であり私のご先祖、アルティア・レイノール様です。彼女は『魔法使いの始祖』、つまり魔法を作った人物として知られています。彼女は紫の髪と瞳を持ち、莫大な魔力を持っていたと言われています。いつしかその特徴は魔法使いの間で『始祖の血』と呼ばれるようになりました。そしてレイノール家は女子しか生まれない家系でして、年頃になったら魔力の多い男子を婿にとって『始祖の血』を薄めないようにしているのです」


「ほぉー。まさに魔法使いの中の魔法使いって訳だ。勇者一行には実力を買われて参加することになったのか?」

 ロズさんは納得したと思いきや、別の質問をぶつけます。


「それも一つの理由ですが、別の理由もあります。私が7つの時、先輩が8歳の時ですね、その時から先輩は有名人でした。先輩が『稀代の魔法使い』と呼ばれ始めた頃から、両親からは『あなたのお婿さんは彼よ』と言われ続けていました。ですが先程の暴露を受けて、本当に先輩が魔法を使えるのかを確認するために私は勇者一行に同行するように言われたのです。」

「それで勇者の野郎が魔法学院の推薦って言ってたのか…なるほどな、あ、勇者の野郎って言ったのは奴に内緒な」


「問題ありませんよ。私も彼の事は嫌いです。何も知らないくせして先輩の事『無能』って呼んで、あまつさえその事実を全世界にばら撒く?そんな人をどうやって好きになれというんです?先ほどは勇者が居たから仕方なく先輩の事を悪く言いましたが本心ではそんなことはないと思っています。何か事情があってそういう風に装っている、というのが私の見解です」

 エルトさんは不機嫌そうに苦言を呈します。


「なるほどな。それなら都合がいい。オレ達も同じくカテラの事を信じてる。なぁアリシア嬢……アリシア嬢?まずいな……のぼせてるみたいだ。さっさと上がろう」

 長く浸かりすぎたのか、頭がふらふらしてきます。そして――意識がぷっつりと途切れました。


 ―――――――――


 目を覚ますと宿屋のベッドでした。頭に乗っかっている濡れた布をどかして起き上がるとロズさんに声をかけられます。

「お、起きたか。気分はどうだ?」

「問題ありません。すみません、ご心配をおかけしました……」

「まぁまぁ。無事ならそれでいいが次からは無理するなよ?」

 そう言って彼女は私が飲むための水を取りに行ってしまいました。


 窓の外が暗いことから、結構な時間が経っていることが分かります。ふと、隣のベッドを見るとエルトさんが寝ていました。寝言でしょうか?何かぼそぼそとしゃべっているようなので耳を澄ませると……


「ふふ……カテラ先輩……見下して……」


 聞かなかったことにしましょう。誰にでも隠したい一面はあるものです。出来るのであれば先ほどの様な賑やかで楽しい日が続けば良いのに……そう思いながらも夜は更けていくのでした……

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