【勇者Side】女子会その1

 謎の甲冑との戦闘で傷を負い、戦闘不能になった勇者カテラを近くの町にある病院に寝かせ、私たち女子三人は宿屋で宿泊することになりました。魔法が使えなくなった謎を解いた所で湯浴みをすることにしました。


 ちなみに私とエルトさんは『入浴』派です。カテラは入浴前に行う掛湯のみという珍しい『掛湯』派です。本人曰く、『入浴するならその時間を魔法の研究に割く方が有意義だ』とのことです。


 私は一足先に浴場へ行き、掛湯をした後に入口に背を向けて湯舟に浸かっていました。両手足を広げても――人目がないからと言ってそんなはしたない姿では入りませんが――5人は入れるほどの大きさです。肩までしっかりお湯に浸かると、全身の疲れがお湯に溶けていきます。この感覚こそ入浴の醍醐味です。


「アリシア嬢、居るか?」

 ロズさんの声の後に、石造り特有のぺたぺたという足音が近づいてきます。

 振り返りますが湯気で視界があまりよくありません。

「いますよー」

 と若干間延びした返事を返すと丁度彼女が私の目の前に姿を現します。


 赤黒い瞳に若干手入れが甘い長い黒髪、そして細かい傷あとが残る褐色の肌。女性にしては背が高めで、胸もかなりあるその姿は同性の私にとっては憧れです。


 そんなロズさんの姿に見とれていると、彼女に声をかけられます。

「どうしたアリシア嬢、そんなにジロジロと見て。あ、もしかしてこの傷跡のことか?」


 その言葉を受け、私が不躾にも彼女を凝視していたことに気づきます。途端に顔が熱くなり、顔ごと目を背けて誤魔化します。


「い、いえ、なんでもありません。呼び方が変わったので何かあったのかな、と」

「ああ、そのことか、今まではオレ以外の女子はアリシア嬢だけだったがエルト嬢が入ってきたもんだからどう呼ぼうか迷ってたんだ」

 そう言いながら彼女は掛湯をし、私と向かい合うように湯舟へと入ってきましたが、ロズさんの座高が高いせいなのか肩までは浸かれていませんでした。

 そんなことよりも、気になっていたことを切り出します。


「…エルトさんとは仲良くなったんですか?」

「ああ。話してみたら意外に気が合ってな」

「…それは、良かったですね……」

 あのいがみ合っていたお二人が仲良くなったのです。喜ばしい事なのですが……どうして彼女は私を嫌っているのでしょうか。そんな考えが顔に出ていたのか、ロズさんは私にこんな質問をします。


「なんで私は避けられているのか、って顔してるな。アリシア嬢」

「ええ……エルトさんとは学年が違うため話す機会もほぼありませんでした。何か不愉快な思いをさせてしまったという覚えもありませんし……」


 ロズさんに説明しながら当時の事を思い浮かべます。私とカテラは同学年で、エルトさんは一つ下。同じ授業に参加することもありませんでしたし、授業以外で顔を合わせたのも3年間の内、数回しかありません。


「だったら、本人に聞いてみるしかねぇんじゃねぇか?今だったら勇者の野郎もいねぇし聞きやすいだろ……お、ご本人の登場だぜ」


 ぺたぺたと足音がしますがロズさんのよりも軽い音です。振り返ると丁度彼女が湯気の中から姿を現しました。エルトさんは年下なこともあり小柄で、身長は私の胸程度しかありません。胸もその……慎ましいサイズでした。腰まで伸ばした薄紫の髪は手入れがしっかりとされており、枝毛などもありません。


「人の体をジロジロと見ないでください。恥ずかしいです」

 そう苦言を呈する彼女の頬はまだ掛湯もしていないというのにほんのりと赤くなっています。一見すると無表情ですが心なしか恥じらいの色を帯びていて可愛らしいです。……小動物的な『可愛い』ですよ?


 突然ロズさんから声をかけられます。

「なぁ、アリシア嬢ってもしかして……そっち系なのか?」

「な、なんですか『そっち系』って‼私はただ可愛らしいなぁと思ってみてただけですよ‼やましい気持ちなんて――」

「人の体を見て『可愛らしい』ですか、しかもやましい気持ちなんて……やっぱりアリシア先輩はそっち系だったんですね。少し失望しました」

「だから違いますって‼誤解です‼」

 必死に否定しますがどんどん話が進んでいきます。


 仕方ありません。タイミングは最悪ですが話を逸らすためにエルトさんに私を嫌っている理由を今聞きます。そうでないともっと大変なことになるのですから。


 お二人からの疑惑と失望の目を無視し、真剣な顔をしてエルトさんに問いかけます。

「やっと、名前で呼んでくれましたね。エルトさん」

 彼女は、ハッとした表情を浮かべると目を逸らしてしまいます。

「教えてください。何故私とは話そうとしてくれないのですか?できるなら私はあなたとも仲良くしたいのです。パーティメンバーとして、そして、友人として」


 私の言葉を聞いた彼女は少しの間黙ったままでしたが、観念したのか口を開きます。その口から飛び出た言葉は私とカテラを嫌う理由でしたが、それは予想できないものでした。


「何故アリシア先輩を避けていたのか、カテラ先輩のことを悪く言ったのか、その理由は――」


「カテラ先輩のことが好きだからです」


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