決意新たに

 夕刻、魔王城の自室にて、様々な物を机上に広げて俺はうんうんと唸っていた。


 イモリの黒焼き、水晶玉、魔石、竜血晶、賢者の石――


 その他もろもろ、希少度に差は有るが全て魔法使いが使用する物品だ。これらは魔法を使用する際に用いる触媒物質で、全ての魔法は空気中や触媒物質に含まれている触媒に魔力を注ぐことで発動する。しかし、俺の場合は膨大すぎる魔力に触媒が耐えきれず、結果的に今まで魔法を使うことが出来なかった。


 勇者が回復しているのを知った俺は、アイツらの妨害よりも自分が魔法を使えるようにすることを優先することにした。俺が魔法を使えないことを知ったアイツらを始末するには魔王にならなければいけない。魔王になるには今日から数えて一週間以内に魔法で「魔王の冠」を作らなければいけない。


 ――本当にやれるのか?

 数時間前にした決意が揺らぐ。16年間、手を変え品を変え試してきたが成果は無い。


 ―― 一度初心に帰るか……

 そう考えた俺はカバンの中からいつも持ち歩いている数冊の本を机上に置いた。そのどれにも豪奢な表装や丁寧に印字された表題タイトルが書かれている。


 魔導序論、魔法の成り立ち、魔力の与える影響とその分類について――


 全てが魔導書の類である。だがお目当ての本はこいつらじゃない。俺はカバンの底に埋もれていた一冊のノートを見つけ、魔導書をどかして机の上に置く。それは丁寧な表装も、表題すら記載されていない只の紙の束だ。だが、先のどの魔導書よりも分厚かった。なぜならこれは俺が、。ページを一つめくるとそこには拙い字でこう書かれている。


『ぜったいに、い大な魔法つかいになる!!』


 懐かしい。6歳の頃、膨大な魔力を持っていることが分かった俺は様々な魔法使いに師事してきたがいつまで経っても魔法は使えなかった。そのため独学で自身の研究をすることにした。これはその時にした決意だろう。この頃はまず、『魔法とは?』『魔力とは?』と魔法の源流を解明しようと躍起になっていたな。


 続いてページをめくる。


『おれが作った「魔法が使えない人にも使える魔法」を試したが、使えなかった。なんでだろう。』


 これは8歳の頃だ。この頃から『魔力がなくても使える魔法を創る』ことを目的にして研究を行っていた。まぁ、俺は使えなかったのでこの魔法一つ開発してお蔵入りになったんだが。……にしても8歳の時の俺、もっとマシな名前があっただろうに……


『周囲からの目線が怖い。あれから期待は膨らみ続けるが研究の成果は出ない。もしもこの事実がバレたら、俺はどうなる?』


 ……11歳の頃。8歳の時に作成した魔法は革新的な物で、俺は史上最年少で称号を持っていた。この頃から周りの評価が一変し始め、『神童』『稀代の魔法使い』ともてはやされるようになるが、内心は期待に押しつぶされそうになっていた。


『俺自身の名誉にかけてここに誓う。後三年で魔法を使えるようにする』


 13歳。魔法学院に在籍していた俺の元に王国から勇者一行への参加を命じる手紙が届く。成り行きで参加することになった俺は決意した。



 ――だが、この決意は、十年間の決意は未だに実を結んでいない。



 だから改めて決意をするのだ。今、この場所で。人の身から外れようとも、人類の仇敵となろうとも、後悔だけはしないように。



『十年来の決意にかけて、俺は必ず魔王になると誓う』



 願わくば、もう書き込むことが無いように――

 そう念じながら、俺はペンを走らせた。



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