対峙

 カテラはバシネットのバイザーから勇者たち3人を見つめ――いや、睨んでいた。そして彼らの陣形を見て戦略を組み立てる。


 5mほど先に、俺の左手には勇者ヒスト、右手には剣士ロズが、互いに1mほどの間隔を取って立っている。そしてその後ろに僧侶アリシア。もちろん全員戦闘態勢を取っていた。剣士ロズは両手で大剣を、勇者は右手に片手剣を、左手に盾を構える。少しの間考え、俺が出した答えは―――


 剣士を先に潰す。俺はショートソードを左に低く構え、ロズの右に踏み出した。


 好戦形態アグレッシブで増強された筋力は5mという距離を一足で詰めることができるほどの脚力を俺にもたらした。


 一瞬で俺はロズの右に立つ。こうすることで勇者からはロズが邪魔になり俺への攻撃ができなくなる。そしてすかさず左下から切り上げ大剣をカチ上げた。上段から振り下ろす様な構えを取るようにして体勢を崩した彼女に体当たりをお見舞いし、勇者に向けて突き飛ばす。


「つあっ…」

「おい!邪魔だどけ!!」


 結果的にロズは勇者を巻き添えにして転んだ。――獲物の大剣を手放して。体勢を立て直そうとする二人の前に立ち、切っ先を向ける。


「ひっ……」

 剣士は完全に戦意を喪失していた。後ずさりしようとするも勇者が邪魔で出来ないようだ。剣が使えない剣士などただの人だ。力がある分、使使よりかはマシだろうが。


 ――――


 俺が『魔法を使えない』事を知っている者はここに居る3人のみ。つまり今ここで全員を始末すれば万事解決するのだが……


 今回の戦闘で『


 理由は二つ。

 一つ目はまだ魔王ではない俺が勇者を殺しても女神の加護で復活する為。

 二つ目は死なない程度の怪我を負わせて旅を長引かせ、魔王になる時間を稼ぐ為だ。


 ――――


 勇者は尻餅をつきながらも、どうにか右手を地面に付き、起き上がろうと藻掻いている。しかしそれには後ずさりしようとするロズが邪魔なのか、しきりに「邪魔だ!!」「どけ!!」と荒々しく怒鳴る。好機と見た俺は彼の右手に剣を投げ、突き刺した。


「――――あああああぁぁあああぁあ!!!!!!」


 言葉にならない叫び声をあげる勇者を見下し、剣を抜く。代わりに右足を右手の上にお見舞いしてやった。ミシミシと指の骨が悲鳴を上げるのが甲冑越しに伝わってくる。骨は折れていないだろうが頃合いを見て足をどけてやる。ヒビが入るくらいの骨折が治るのに一番時間がかかるからだ。


 利き手を潰せたのは僥倖だった。これで少しの間は剣を持つこともできないだろう。そんなことを思っていると床にへたり込んだアリシアが俺を見ていた。


 目の前で起きた光景が信じられないのか、ふるふると頭を微かに振る。ガタガタと震えながらもその両手には錫杖をしっかりと握っていた。俺が視線を向けると「ひっ」と小さく声を漏らす。


 水色の瞳には畏怖の色が湛えられていた。そこに、魔法学院時代に見た快活な笑顔は面影すらなかった。


 もう――あの頃には戻れない。


 さよなら、と心の中で呟き、背を向ける。そして転移魔法――悪魔が頃合いをみて発動してくれたのだろう――でその場を去る。





 一回目の襲撃はこれ以上ないほどに鮮やかに、あっけなく終わった。







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