【勇者Side】追放……それから
―――― カテラが甲冑へと着替えていた時、勇者一行は酒場にいた ――――
私たち勇者一行は洞窟から脱出した後、最寄りの酒場で仲間の募集をしていました。魔法使いカテラの抜けた穴を塞ぐ為です。それに、剣士のロズさんが勇者ヒストさんに「少し頭を冷やした方がいい」と言ったので、休憩を取りつつ食事をしよう――時間的にもちょうどお昼だったので――と私が半ば強引に提案したのでした。
私たちは木で出来た一つのテーブルで食事をとっていました。ロズさんはお肉の皿を5枚、ヒストさんはお肉の皿を一枚だけ、私はサラダ一皿です。
そんな中、ヒストさんが少し赤らんだ顔で言いました。
「そう言えば、さっきの洞窟クリアしてねぇなぁ」
なぁ、なぁと私とロズさんに同意を求めます。その息は酒臭く、この人はお昼にも拘わらずお酒を飲んでいたのです。
「おいヒスト、いくらお前でも酒入った状態でダンジョン潜るのは危険だろ。やめとけやめとけ。」
ロズさんがお肉を食べていた口を空にしてから諭します。その際にチラリ、と私の方に目配せをしてきました。『協力してくれ』そう言いたげな目をしていました。
「そうですよヒストさん。いくら何でも無茶ですよ」
私もサラダを食べていた手を止めて言いました。
「うるせぇ!俺は選ばれた勇者だぞ!あんな無能と一緒にするんじゃねぇ!!」
ヒストさんは突如大声を出して私たちの制止を遮りました。話を出していないカテラのことを引き合いに出すあたり、かなり深く酔ってるみたいです。
「誰もカテラのことは話してねぇっつうの」
ロズさんが3枚目のお肉の皿を空にして言いました。それにしても凄いスピードで食べていきます。
「そうですよ、ひとまず落ち着いてください、ね?」
私もあわてて引き留めようとしますが逆効果のようでした。
「そうだ。あの無能がどうなってるか見に行こうぜ!!」
ケタケタと笑いながらヒストさんは立ち上がります。その腕をロズさんが掴んで止めます。
「おい!やめとけヒスト!」
「手ぇ放せロズ」
ヒストさんは先ほどまでの酔っぱらった声ではなく、相手を威圧する低い声をロズさんに浴びせます。
「嫌だと言ったら?」
ロズさんはひるまずにヒストさんの目を見ながら返事をしました。
「久々にやるか?切りあって勝った方が負けた方に命令できるヤツ」
「……」
ロズさんは黙ってしまいました。おそらく、お二人の剣技にはひっくりかえせない程の差があるのでしょう。――ヒストさんが酔っぱらっていてもその差が埋まらないほどの。
――――――――
そうして、私たちは再びあの洞窟に向かうことになりました。
――――――――
「……いねぇ」
ヒストさんが呟きます。その顔は先程までは赤らんでいましたが、もう素面に戻っていました。私たちはカテラと別れた地点まで洞窟を進んでいました。ここまでの道はほぼひとつしかなく、途中の分かれ道も行き止まりになっています。もちろん分かれ道も探しましたがカテラを見つけることはできませんでした。
「カテラが持っていた松明が無いことからこっから移動したんだろ。奥か手前かはわからんがな」
ロズさんが言いました。
「……そうですね。とにかく奥に行ってみましょう。もしかしたら見つかるかもしれません。」
私は『そうであってほしい』と言う自分の願望を口にしました。
「死体になってな」
クックッと笑いながら勇者ヒストは私の言葉に付け足しました。
―――――
洞窟・最深部
―――――
結局、そのあとも一本道が続き、最深部まで辿り着きました。先程までの4人が横に並ぶのか精一杯の狭い通路から、10mはありそうな広々とした空間に出ました。その空間の大きさから、本来であれば
それどころか、カテラも結局見つかりませんでした。
「なんもいねぇ……どうやら無能はこの洞窟から逃げ出したみたいだな」
つまんねぇ、とヒストさんが引き返そうとした時でした。背後から膨大な魔力を感じ、振り返ります。続いてヒストさん、ロズさんも振り返りました。
私はお二人の後ろにつき、いつでも援護に入れるように構えます。
私たちから5mほど先、この空間の入り口に黒い魔方陣が形作られていました。結果的にこの広い空間に閉じ込められてしまいました。その魔方陣が黒紫色に鈍く光った次の瞬間、眩しいほどに光量が増加します。たまらず三人とも目を閉じてしまいました。光が収まり、目を開けると……
そこには甲冑が、私たちに剣を向けていたのです。
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