魔王の実力

「お主、こちらへ。」

 ひじ掛けに頬杖を付き、その白い足を組みながら魔王はそう告げる。


 王座の前までゆっくりと歩き、彼女と5mほどの距離を開けて立ち止まる。と同時に背後で扉の閉まる音がする。跪いていた悪魔が退室したのだろう。


「我の名はレリフ・ダウィーネ。魔王である。お主の名前は?」

「カテラ。カテラ・フェンドルだ」


 と名前だけ告げる。すると、彼女は眉をひそめ、その赤い瞳でこちらを刺すような鋭い目線を送る。


「ほーう?魔王に対してそのような態度とは中々に自信があるようじゃのう。なかなかに大きな魔力をしているが、いつまでその自信が持つかな?」


 どうやら俺の態度が気に食わなかったらしい。――名前を言えと言われたから言っただけなのだが……


「これは失礼しました」

 とりあえず謝罪の言葉を口にし、頭を下げる。すると、魔王レリフは気を良くしたのか、満足そうな顔をしていた。

「さて、まずは魔力測定と行こうではないか。正確に測るには互いに触れるのが一番じゃ。手を出せ」

 そう言うと彼女はその小さな手をこちらに差し伸べた。握手しろという事だろう。お望み通り俺も右手を出して握手に応える。

「魔界というのは魔力至上主義でな、量が多い…方が……」


 右手が重なったその瞬間、彼女は黙ってしまった。その表情からは笑みが失せ、代わりに動揺の色が浮かぶ。それもそのはず。彼女からは俺の1/10程の魔力しか感じられなかったからだ。


「な、なかなかやるな……じゃが我の本気には敵うまい!!」

 その言葉と同時に場の雰囲気が一変する。高まった魔力がピリピリと肌を刺す。彼女の魔力は俺の3倍に膨れ上がっていた。一気に30倍以上になるとはさすが魔王というべきか。彼女とはというと、これ以上ないほどに勝ち誇った顔をしていた。紅い瞳には自信が満ち溢れている。俺も負けてはいられない。深呼吸を一つし、腹部に力を込める。急激に膨張した魔力は衝撃破となり彼女の長い銀髪を揺らす。彼女の視線は握手した互いの右手に向けられた。


「う、嘘……」


 そう言って彼女の視線は右手から俺の顔へと移る。その瞳には驚愕と畏怖の色が浮かんでいた。


 ――――


「先ほどは非礼な物言いをし、誠に申し訳ありませんでした……」


 握手から1分、魔王は跪いていた。


「どのような罰も甘んじて受け入れます。ですからどうか命だけは……」

「命は取らんわ!!とりあえずその口調はやめてくれ。調子が狂って仕方がない」

「わかりま……分かった。先ほどの非礼は許して欲しいのじゃ」

「別に構わない。あまり気にもしていないしな。ところで一つ聞きたいことがあるんだが―――」


 魔法を使えるようにしてほしい、そう続けようとした瞬間だった。大広間の扉が勢いよく開け放たれる。


「なんだァ今のでけェ魔力は!?ついに魔王ちゃんがキレたか!?」


 そう言って入ってきたのは、燃えるような赤い髪に黒い角と翼を持つ女竜人ドラゴンメイドだった。

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