支援魔法、解禁

「んで、アンタはどちら様?」

 女竜人ドラゴンメイドはそう言いながらこちらに近づいてきた。

「俺か?次期魔王だ。」

「へェ、んじゃさっきのでけェ魔力もアンタのだって訳だ。アタシといっちょバトらねェか?」


蛇のような瞳を細めて彼女は言った。


「断る。そもそも俺はまだ魔法が使えないんだが?」

「お、お主、魔法が、つ、使えないのか!?」


 笑いを堪えながらレリフが問いかけてきた。癪に障るので先ほどよりも激しく魔力を膨張させる。すると彼女は体をびくりと震わせ女竜人の陰に隠れてしまった。


「ド、ドラゴォおお!!カテラが我をいじめるのじゃぁああああ!!!!」

 

 レリフはドラゴと呼ばれた竜人の足をひし、と掴み震える声で彼女に助けを求めていた。そこには魔王の威厳など微塵も無い。頭に乗っている小さな冠を除いて。


「今のはさすがに魔王ちゃんが悪いっしょ・・・」

「そ、そんなぁ・・・」

「そろそろ本題に入りたいんだがいいか?」


 微かな苛立ちを抑えながらここに来た経緯を二人に説明した。


 ――――


「魔力はあるのに魔法が使えないとな?そりゃ考えられる原因は一つだけじゃ」

 

俺の話を聞いた後でレリフ――今度はマジメに話を聞いていた――が口を開く。


「魔法を使うときに必要なものは二つある。一つは魔力。もう一つが触媒じゃ。触媒に魔力を注ぐことで反応が起き、魔法という現象が発生するのじゃが……カテラの場合じゃと触媒が高すぎる魔力に耐え切れないために自壊するのじゃろ。して結果的に魔法が不発に終わるのじゃ」

「つまり膨大な魔力に耐えられる触媒を用いれば俺でも魔法が使えるってことか?」

「お主の魔力量は正直言って規格外じゃ。そんな量の魔力に耐えられる触媒なぞ我も聞いたことないわ。」


 やはり俺は魔法が使えない運命なのか――と諦めかけたその時だった。


「なぁ、そんならさぁ……」


 一番魔法に馴染みのなさそうな、ドラゴの口から妙案が飛び出してきた。


「カテラの肉体そのものを触媒にする?」

「あぁ。肉体が魔力に耐えられねェんなら本気出したときに爆発でもしなきゃおかしいじゃねェか」


 理論的には間違っていない。だが、そうすると使える魔法は限られてくるだろう。


「肉体に直接作用する支援魔法や回復魔法、変身魔法とかは使える可能性が高いってことか。逆に空気中に存在する触媒を用いた『灯の魔法』とかの空間魔法や投射系の攻撃魔法はほぼムリってことになるな」

「まあ物は試しじゃ。何か唱えてみぃ」

「そうだな、『好戦形態アグレッシブ』!!」


 ―――好戦形態アグレッシブ

 全身の筋力と神経伝達速度を向上させる。前衛職にかけるのがセオリーの魔法。


 効力を想像しながら全身に魔力を漲らせる。すると、レリフとドラゴが目を開けたまま静止していた。呼びかけてみるも反応はない。唱える魔法を間違えたか――と思案しているとあることに気づく。彼女たちは静止しているわけでなく、非常にゆっくりと動いていた。瞬きに1分の時間を要するほどに。効力が強すぎるのだろう。極限までに研ぎ澄まされた神経は俺以外の時間の流れを遅くさせたのだ。


 突然ささやかないたずらを思いついた俺は早速実行に移す。魔法を維持したまま王座に座り、先ほどのレリフと同じ姿勢をとる。ちょうど彼女たちの背後を取る形になった。そして魔力を散らし、魔法を解除した。


 二人は俺が一瞬で姿を消したことに驚愕していた。オホン、と咳払いを一つすると一斉にこちらを向く。そして俺はこう言った。


「我は魔王、カテラ・フェンドルである」

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