お主にはまだ早い

 ひじ掛けに頬杖をつき、足を組んで偉そうに座る俺を見て彼女たちは思い思いの言葉を口にする。


「あー!!我の王座!はようどかんか!お主にはまだ早いぞ!!」

「似合ってんじゃねェか。なかなかサマになってんぜ『次期おーさま』」

「なんか俺の扱い酷くないか?これでも次期魔王だぞ?」

 少々の不満を告げながら王座から立ち上がる。


「さっきの魔法はすげェけど、まだ『次期おーさま』だからな。王座ってもんは『おーさま』になってから座るもんだ」

「ドラゴの言う通りじゃ!戴冠式も済んでないのに王座に座る方が悪いんじゃぞ!まぁ先ほどの魔法は流石と言わざるを得ないがな」

 

 レリフがぷんすかと怒りながら空いた王座に座る。


「戴冠式?その冠は俺には小さすぎるんじゃないか?」

 

 小さな魔王の頭に乗っている冠は直径が彼女の腕ほどしかなく、どう見ても俺の頭には不釣り合いだった。


「この冠はやらん。そもそも魔王の冠は自身の魔法で創るものじゃ。その点ではお主は相当苦労するじゃろうなぁ」

 くつくつと笑いながら彼女は続ける。

「つまりお主の苦手な『自分の肉体を触媒としない』魔法で創るのじゃ。大変じゃの~」


 他人事のように言いやがって――俺はどうするべきか考えていた。魔法が使えるようにならないと魔王になれない?最初の話と違うじゃねぇか。魔王になったら魔法が使えるようになると聞いて着いてきたのに―――


 今とれる選択肢は大きく分けて2つ。

 1.魔界に残り魔法が使えるようになる手段が無いか探す

 2.このまま人間界へ帰る


 1番は魔法が使えない=魔王になれない状態で魔界にいつまでいられるか分からない上安全の保障もない。そもそも現魔王が心当たりがないと言い切った辺り、本当に手段があるのかも分からない。十中八九茨の道になるだろう。


 2番はそもそも帰る手段を知らないし、帰ったら勇者への復讐ができるかも分からない。そして何よりも戻って『自分相手にしか魔法使えません』じゃ俺のプライドが許さない。並みの魔法使い達に「アイツ攻撃魔法使えないんだぜ、プークスクス」なんて後ろ指を指されながら生活するなんて絶対に発狂する自信がある。この選択を選ぶくらいなら死んだ方がマシだ。


 行動指針は決まった。魔界なら未知の物質があるはずだろう。手当たり次第に魔力を流し込んで俺の魔力に耐えるものを探すか―――――

そんな俺をよそに、魔王レリフは現実を突きつけてきた。


「戴冠式の日程は1週間後じゃ。これより伸ばすと勇者迎撃に支障が出るぞ」

 それは、俺を絶望の底に叩き込むのに十分な言葉だった。


 ―――――――


「せめて一か月はくれないか?さすがに16年生きてきてできなかったことを1週間は無理だろう!」

「そうは言っても無理なものは無理じゃ。これを見てみぃ」


 そう言ってレリフは水晶玉を見せてきた。そこには酒場で仲間の募集をしている勇者一行が見えた。


「こやつらのペースからするとあと3週間ほどで我らの前に現れるじゃろう。1か月も待ってたらお主の復讐もできなくなるぞ?」

「強い魔物をぶつけて引き延ばすとかできないのか?」

「無理じゃな。こやつら強すぎるのじゃ。仮に我が今直接対決しても勝てるか分からん。」

「本気の魔王ちゃんでも勝てねェ奴か、バトってみてェ!アタシが行く!!」

「待った。俺に行かせてくれないか。今の状態でどれくらいやれるか見てみたい」


 そう言うと二人は俺を見る。


「まぁ・・・今はお主が最高戦力だからの・・・」

 渋々とレリフは出撃の許可を出してくれた。




 追放されてから3時間、早くも復讐のチャンスが巡ってきた。


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