魔界からの招待状

 女悪魔は両手を上げながら言った。


「ほらほら、このとおり敵意はないからさ、右手のその剣しまってくれないかな?」


 ――外見に似合わずなんとも気の抜けるような話し方をする悪魔だ。

 彼女の外見は人間でいえば16歳ほどだろうか。俺よりも少し背は低い。金の髪と瞳を持ち、頭からは羊のような巻き角。黒い翼と尻尾をゆらゆらと揺らしている。


 半ば呆れつつも短剣は持ったまま右手を下し、言い放つ。


「魔物のいう事を馬鹿正直に聞く奴がいるか。右手は下すが剣はしまわないぞ」

「わ、分かったから。とりあえずおしゃべりしよ?」

「断る。なんでそんなことしなければならないんだ?」

 

 半ば苛立ちながら提案を却下する。


 ――こんなところで時間を食っている場合ではない。一刻も早く魔界に行き魔法を使えるようにしなければ。

「俺には時間が無いんだ。用が無ければ失礼する」

 そう言って彼女に背を向け洞窟の入口を目指そうとしたとき、彼女の口から出た言葉に俺は耳を疑った。



「魔界、行きたいんでしょ?」



 入口へ向かう足がピタリと止まった。



 ――――――


「んで、俺の心覗いてさっきの言葉を吐いたってわけか」

 女悪魔はうんうん、そだよー、と軽い調子で頷く。


「分かった。詳しい話を聞かせてくれ。メリットデメリットすべて包み隠さずだ」

 彼女はマジメな顔をしたと思ったらおどけるようにさっきの俺の言葉を繰り返す。

「ことわる。なんでそんなことしなければならないんだ?」


 ―――ブン殴りてぇ。


「じょ、冗談だよじょーだん。暴力はんたーい」

 またも心を読んだのか彼女はこちらをからかうように言った。


「とりあえず早く話してくれ。なんか疲れてきた……」

「おっけー。まず魔界に来て欲しいっていうのはほんとうで、魔王さまが後継者を探しているから魔力の高い人を連れてきて欲しいからだよ。お兄さんが魔法使えなくても魔王様なら使えるようしてくれるかもね。あ、魔界には転移魔法で行くから今からでも行けるよ」


 聞いた限りでのメリットは魔法が使えるようになる可能性があること。デメリットは魔王になるにあたって魔物化するであろうということ。逆に考えればアイツと直接対決できる。魔王になって勇者一行を抹殺できれば事実を知る人間はいなくなる。速攻で魔王になってアイツらを消すことができれば、噂が広がることもないだろう。

 

 それだけで拒否するという考えは消え失せていた。


 ――魔物化?知ったことか。俺は自尊心プライドさえ守れればそれでいい。


「その話、乗った。今すぐ俺を魔界に連れていけ」

「りょーかい!それじゃ魔法使うねー」


 その言葉と同時に黒い魔法陣が足元に展開される。魔法陣が黒紫色に発光したと思った次の瞬間、浮遊感が俺を襲い、視界は黒紫色で塗りつぶされていた。5秒ほどすると出口であろう光が見えてくる。




 そして俺は魔界へと降り立ったのであった。




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