追放

「カテラァ!!そっちいったぞ!」

 剣士ロズの声が洞窟内に響く。時間的には朝なのに洞窟内は暗く、松明などの灯りなしには進むこともままならなかった。


 俺たちはゴブリンの群れと戦闘をしていた。一体一体は俺たちの敵ではないものの、二十三十も出てくると流石に数で押されてくる。


 勇者ヒストと剣士ロズが前衛、俺とアリシアが後衛でバックアップをする、という陣形だ。勇者と剣士は押し寄せるゴブリンを各個撃破していたが横をすり抜けた奴がこちらに向かってくるが、背後には魔法を唱えているアリシアがいる。


 ――――やむを得ないか。そう思った俺は護身用の短剣を引き抜き、格闘戦をすることにした。


 その瞬間、本来の相手を片付けたロズがゴブリンの背中を一閃し、斬られたゴブリンは地に伏した。


「何やってんだ!集団戦こそ魔法だろ!チャチャっと片付けちまえよ!!」

「だめだ!お前らも巻き添えにしちまう!」

 と魔法が使えないことを告げると、ゴブリンの勢いは収まってきた。戦闘がじきに終わるのは目に見えた。


 ―――結局俺はその戦闘魔法一発撃たずに終わった。


 旅が始まってから一週間、俺は一度も魔法を使っていない。王国から手紙が届いたあの日にした決意はついに実を結ぶことはなかったのだ。つまり、まだ使


 戦闘が終わり、周囲の安全を確認しているときだった。俺は手に持っていた松明を壁に掛ける。


「なぁカテラ」

 勇者が俺を呼ぶ。その声には苛立ちと怒りが混じっていたが、彼の顔はにこやかだった。

「一度、ここで魔法を使ってみてくれないか?『灯の魔法』でいい。俺でも使えるんだ。朝飯前だろ?」

「なんでそんなことをしなければならない?」

 平静さを必死に取り繕いながら、俺はそう答える。


 彼はにこやかな顔のまま続けた。


「正直に言うと、俺は君が『魔法を使えないんじゃないか』と考えている。今まで魔法一つ出していないじゃないか。戦闘はともかくとして野宿で火を起こすときにも君は魔法一つ使っていない。今もそうだ。こんなに暗いのになぜ『灯の魔法』じゃなく松明で灯りを取ってるんだ?」

「……」


「勘違いだったら素直に謝る。だから、今ここで、魔法を使ってくれないか?」

「……」


 二つの質問に沈黙で答える。


「沈黙は肯定したとみなしていいのかな?」

 その質問にも沈黙で答えようとしたその時だった。


「二人とも見ろよ!!コイツ魔法が使えねーのに『俺凄腕の魔法使いですよ』って顔して!あわよくば何もしないで!魔王討伐の一員になろうとしていたんだぜ!!」


 にこやかだった勇者の顔はひどく歪み、その口は先ほどまでの遠慮を忘れたかのように汚い口調で俺を非難した。

「ゆるせねぇよなぁ!?何もせずに、無能の分際で俺たち働き者と同じ報酬受け取ろうとしてるんだぜ!?なぁ二人とも!!」


 剣士ロズと僧侶アリシアはうつむいて何も答えない。


「とりあえずお前クビだわ。無能はいらねぇんだよ!今すぐ消えろ!!」

 勇者は俺の胸倉をつかみながら大声を出し、俺の顔に唾を飛ばす。汚ねぇ。そして突き飛ばされたことで彼の手から解放された。


 彼はギャハハハ、とやかましい笑い声を出しながら入口への道を引き返す。続いてロズが、アリシアは最後まで残っていたが悲しそうな顔をして去っていった。コツコツと彼女の足音が遠ざかる。そして壁に掛けられた松明の火が爆ぜる音しかしなくなった。



 ――――俺は勇者一行から追放されたのだった。

 自尊心プライドをこれほどまでないほどに傷つけられて。

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