第18話

「よし、お前ら行くぞ!」


ある日の夜道、数人の怪しげな者たちが闇に紛れてぞろぞろとあるところに向かっていた。


「姿をくらましていたあの女も捕捉したことだし、俺たちが行けばイチコロですね!」


黒ずくめ集団の中の一人が余裕そうな表情で言う。


「そうだな。ハハッ。でも今回のミッションはあの女を生け捕りにすることだぞ。忘れんじゃねえぞ。」


「わかってますって、大丈夫ですよ。それじゃあ行きますよ。」


______________________________________



「忠実なる下部よ、我が渾沌の旋律に共鳴しなさい!!」


かなり夜も更けたころ三日月は高らかに宣言したが、何も起こらない。そして部屋には数秒間の沈黙が流れた。


「お姉ちゃん何やってるの?」


逆月が憐れむような眼を三日月に向けた。


「は?あなたなんで無視してるのかしら?私が渾沌の旋律に共鳴しなさいと言えば共鳴しなさいよ!あなたは私の下部でしょ?」


「一応下部じゃなくて食糧という設定だが…共鳴って何をすればいいんだ?」


「特に何をするというわけではないわ。私が共鳴しなさいと言えば、臨機応変に合わせてくれたらいいのよ。今はそういう事がしたかった気分なのに、冷めちゃったわ。もう、あなたはどう責任を取ってくれるのかしら?」


三日月は少し不機嫌そうな表情をした。


「なんかすいません。」


彼は気まずい雰囲気に耐えることができずに謝った。


「お兄さんも大変だね…お姉ちゃんの食糧になったからってこんなことにまで付き合わされてね。」


逆月はヤレヤレといった感じで彼を見る。


「はい、生活面は助かってるけど、こういうところはちょっと疲れるね。三日月さんは少し変わったところがあるから…」


そう言ってハァーとため息をついた。彼を会社から連れ出したときしかり,先輩の家に乗り込んだ時しかり。三日月は少し飛んでいるところがあると彼は思っている。


「あなた、何か言ったかしら?まぁいいわ。私は今とても暇を持て余しているの。何か時間を潰せるようなことはないかしら?」


「それならいつもやってるようにパソコンでいつもやってるようにお金儲けでもしてたらいいんじゃないの?暇なら。」


「あーもうそれ飽きたのよね。それにもう人間なら数年か遊んで暮らせるくらいのお金は儲けたし当分やる必要はないのよねぇ。」


「そっかぁー。でもそんなこと言われてもなぁ。俺も暇だしなぁ。」


最近の彼は朝も三日月に起こされるまで寝ていて、起こされても朝ごはんと朝の吸血が終わると大体ネットサーフィンをするか部屋でゴロゴロしているのが常で、社畜からただの生産性のないニートにランクダウンしてしまっている状態である。もう以前のような状態に戻ることはできないだろうと彼は思っている。


「暇なのよ。」


そういうと、三日月は彼の方に体を寄せてきてウザがらみをし始めた。彼にとっては正直面倒なので押しのけるなり自分がよけるなりして離れたいが、女性付き合いの経験が全くないので女性の体のどこを触ったらいいか分からない上に、照れくささや恥ずかしさから彼は顔を紅く染めてしまった。

三日月はそんな彼の状態に気づいてさらにウザがらみしてきた。


「顔を紅くしているのかしら、初心で可愛いわね。もっとしてあげるわ。」


三日月がさらに体を密着させて来ようとした時、三日月の動きが止まった。さらに先程のような緩んだ表情ではなくとても険しい表情に変わっていた。彼には何が起きたのかは分からないが、急に辺りが緊張した空気に包まれた。

逆月も三日月と同様に何かを察したような表情に変わっていた。そんな二人と何が起こっているのか理解できない彼とギャップがあった。


「二人とも…どうしたんだ…?」


「しっ!静かにしなさい!」


いきなり三日月に口を抑えられた。


「私のことを狙う者かがこちらに近づいてきているわ。」


「私たちを狙う者か…何を言っているんだ?」


彼は突然のことだったので全く状況が呑み込めていない。


「これが終わったらあなたに教えてあげるわ。それより逆月、覚悟を決めなさい!」


そういうと三日月は自分の右腕の血管に犬歯を刺し、血晶を作ると、しゃがみながら玄関の方へ警戒しながらゆっくりと進んでいく。現在三日月が持っている血晶は先輩の件の時の物とは少し短めの物だった。狭い玄関でも振り回しやすいように考えてのことだった。

三日月のすぐ後を逆月がついて行く。逆月の血晶は三日月の物とは形状が違っていて、西洋風の剣と言った形である。俺は二人がいる玄関から少し離れた部屋から二人を後ろから見守っていた。


ガタン!


ドアが壊された音がしたと思うと、中に入ってくる数人の姿が見えた。彼らは黒を基調とした姿で顔を隠すためか、仮面舞踏会を連想させるような仮面をつけていた。そして手には血晶と思われるものがあったが、それは三日月や逆月の物とは違って体の一部を硬化させて武器化したに過ぎないものだった。それらの実力派三日月、逆月には遠く及ばず、数人のは二人にあっという間に倒されて、辺りには彼らの血が飛び散っている。


「まだやつらは来るわ。気を抜かないで。」


その言葉通り奥から再びこちらに同じ格好の数人が近づいてくる。これなら二人なら楽勝だろうと彼は心の中で安堵した。しかしそれは違った。

数人は先ほどと違って突撃してくるようなことはせず、こちらの様子をうかがうと、何かを投げつけてきた。それはこちらに着弾すると、もわもわと紅い煙が発生した。

そして、辺りは紅い煙に包まれて何も見えなくなってしまった。

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