第17話
「ねぇあなた、今回のことは見逃してあげるわ。この人の血に対して魅力的に思うのは仕方がないわ。私もこの人の血は実際とても好みの味であるし。」
三日月は持っていた武器を納めた。
「それにあなたは私が目を付ける前にこの人に目を付けていたんでしょう?たまたま私が先に手に入れただけでね。これからは人の物に手を出さないように気を付けなさい。」
「はい…」
「それが分かったら私たちの目の前に二度と現れないでくれるかしら。今回のことは見逃すとは言ったけど、あなたのことを許したわけじゃないの。」
三日月は突き放すように冷たく言い放ったが、これは三日月にとって先輩への最大限の優しさであった。
本来ならば先輩は殺されていてもおかしくない状況であった。それほどまでに吸血鬼たちは自分の所有物を侵犯されることに対して敏感なのだ。
「それじゃああなた、行くわよ。」
そう言うと三日月はくるりと部屋から出て言った。彼はそのあとを付いて行った。
三日月は彼を抱えて家の前に着地すると、無言でドアを開け、家の中に入って行った。彼は中にいる逆月にただいまーと言って入ると、心配した様子で逆月が駆け寄ってきた。
「ねぇお兄さん大丈夫?なんか血が結構出てるけどようだけど…」
彼の服には先輩の返り血がべっとりとついていた。それを見た逆月が心配そうに彼のほうに駆け寄ったが、においによって彼のものではないと理解していたが、自身の姉が大きな争いに巻き込まれ矢野ではないかと心配している。
「お兄さん、心配したんだよ。体のいろんなところに血がついてるからどこかを怪我したんじゃないかと思って…」
「俺も三日月さんもケガなんかはしてませんよ。本当に修羅場だったんだけど、何とかなったって感じかな…俺は何もしていないんだけどね…」
「お兄さんに何もなくてよかったんだけど…」
「あら逆月、あなたの姉に対しては心配とかはないのかしら?」
「見た感じお姉ちゃんはけがをしていないし、どうせやっつけてきたんでしょ?」
三日月はつまらなさそうな表情をすると、ドタっとソファーに倒れこんだ。
「ねーえー、あなたー、私さっき血晶使ったからおなかすいたんだけどー、あなたの血液もらえるかしらー?」
「えー?もう吸ったじゃないか。何を言ってるんだ?」
彼は三日月をなだめるような口調で言った。彼は三日月のみならず逆月にも血を分け与えているうえに先輩の傷を見て血の気が引いていたのでこれ以上の吸血は勘弁してほしいと思っている。
「は?私はそういう事を言っているんじゃないの。いいから早く来なさい。私の言うことが聞けないのかしら。」
彼は三日月の様子がいつもとは違うことを感じ取った。
「はいはい、行けばいいんでしょ。行きますよ。」
彼は面倒に思ったが立ち上がると、のろのろと歩いて三日月の隣に座った。
「はい、よろしい。じゃあ大人しくしくしてなさいよ。結構痛いかもしれないけどね。」
三日月はいつもとは違い、がぶりと力強く嚙みついた。三日月は血を吸うわけではなく彼の首元に噛み跡の傷跡を付けた。
「はい、これで良し。」
三日月が離した後、彼は出血こそしていなかったが、通常の吸血の比じゃないほどの痛みを感じた。
「何をするんだ?痛いじゃないか?」
「私の噛み跡をあなたの首元につけてあげたのよ。これで私の専属食糧っていう証がついたわ。今まではあなたに遠慮して痛いことは極力しないようにしていたけど、あなたがほかの吸血鬼に取られそうになっていたから背に腹は替えられないわ。」
「それとね、逆月、あなた定期的に彼の血を吸っていたでしょ?分かってるのよ。あなたも彼の先輩みたいに痛い目を見たいのかしら?」
三日月は逆月をぎろりとにらみつけた。
「お、お姉ちゃん、ごめんなさい。私、輸血パックじゃ満足できなくて。」
逆月は素直に謝った。というのも先ほどのことから逆月は怒っている様子の三日月に少しビビっている様子だった。
「ハァーしょうがないわね。彼が貧血にならない程度にしなさいよ。言っておくけど彼は私のものなのだから私が吸うことが優先よ。あなたは二の次ね。」
「それでもいいよ。ありがとうお姉ちゃん。」
逆月は三日月に飛び掛かって抱きしめ、頬ずりした。
「もう、離れなさい。鬱陶しいわ。」
そうは言いながらも三日月はまんざらでもないといった感じの表情をしていた。
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