第16話

話の前に設定の追加です。前話に登場した三日月の紅い槍のことですが、血晶というもので、吸血鬼各々に独自の形状の血晶があります。


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 三日月は持っている血晶を薙ぎ構えると、血晶を向けて先輩のほうへ向けてととびかかった。


「やめろーーーー!」


彼は後ろから三日月に飛び掛かった。しかしそれは手遅れで三日月を掴んだ俺の右手には真っ赤な先輩の返り血が付着していた。


彼はその血の量から見て先輩が死んでしまったと思ったが、先輩は体を右に反らして間一髪で三日月の槍を急所からかわしていた。しかし、三日月の槍は先輩の左手の二の腕に命中したようで先輩の二の腕はぱっくりと裂けていて大量に出血していた。先輩は右手で二の腕を抑えていが、血は止まるどころかドバドバと流れ出てくる。三日月にもその返り血がかかっていて、顔の一部が紅く染まっていた。


三日月は顔に付いた先輩の血をペロッと舐めた。そして何かを感じ取った。


「ん?この血の味って…ねぇあなた、あなた吸血鬼じゃないわね?」


その言葉に先輩がびくっと反応した。


「な、なんでそう思ったの?」


「あなたは吸血鬼をなめているのかしら?吸血鬼なんて血を見れば大体のことが分かるわ。でも人間の味の様な感じだけど、何か違うわ。ん?でもこの匂い…人間ではないわね。あなたの正体は何?」


先輩は三日月の問いかけに答えずに、目を固く閉じた。歯をくいしばって自分の傷跡を抑えている。


「答えなさい!」


三日月は威嚇するように血晶の紅い槍をガンっと先輩の近くの床に刺した。


先輩はその音の大きさに驚いたのか目を開き、抑えていた手を離した。手が離されたことによって露わになった傷は先程のものとは異なっていた。それは彼の腕にある傷跡のようにふさがりかけているもので、彼の傷と同様に治癒のスピードが明らかに早すぎる。


三日月もそれに気づいた。


「私は星屑・L《リヴァイアサン》アンノウン。」


その名前は先輩がかつて会社で使っていたものとは別の物だった。会社で使っていた名前は彼女にとっては人間界で生きていくのに使うもので、こちらが本当の名前であった。


「アンノウン?あまたあの名門家のアンノウン家の出身なの?そんなはずないわ。あの血の感じは名門家の吸血鬼のはずがないわ。」


「それはそうだと思う。私はあの家を破門になったのだから。」


「どういうことか教えてもらえるかしら?」


「わかった。あなたと後輩君に話すよ。」


先輩は深呼吸をしてからゆっくりと話し始めた。


「私は吸血鬼の名門家のアンノウン家に生まれた。しかし、私は当時のアンノウン家の当主、私の母親に当たる吸血鬼から血が穢れているという理由で破門された。実際あなたも私の血が吸血鬼じゃないと思ったんでしょ?」


「そうね。穢れているとは思わなかったけど、薄いとは思ったわね。あと、あなたの能力は奇形の吸血鬼そのモノね。」


「三日月さん、奇形の吸血鬼って?」


彼は三日月に尋ねた。


「奇形の吸血鬼っていうのは生まれつき吸血鬼としての性質を兼ね備えていなかったり、力が異常に強かったり、あるいは弱かったりなんかで吸血鬼としては認められない吸血鬼の事よ。吸血鬼は人間と生殖の仕方が違うから奇形が生まれやすかったりするし、名門家になればなるほどそう言った存在は家の恥として存在を消そうとするし、殺されなかっただけ運が良かったといった方がいいかもしれないわ。」


俺は吸血鬼の社会の厳しさに驚いた。人間の社会ではこんなことはない。少なくとも奇形で生まれてきたからと言って殺されたりすることはない。建前上ではあるが、保護されるのが当たり前だ。いつかが吸血鬼の社会は気が楽で羨ましいと思った事を思い出した。あの時の三日月の気持ちが分かった気がした。


「でもね、あなたの治癒能力は異常よ。私はかなり強いほうの吸血鬼だけど、あなたのような治癒能力はないわ。見方によればその能力は才能だと思うわ。」


「でもね…」


先輩は暗い口調でさらに話し始めた。


「私は吸血鬼並みの力もないし、鋭い犬歯も持っていない。その代わりに人間の食事で生き延びることはできるけど…本当は血を飲みたい。でも犬歯がないからいつも諦めていたけど、後輩君だけは我慢できなかった。後輩君が入社してから自分の正体を知られずにどうやって後輩君を、襲おうかどうか考えていた。後輩君が会社を辞めてしまったのに今日後輩君を町で見つけて最後のチャンスだと思った。私は後輩君を家に連れ込んで眠剤を仕込んで眠らせたら、果物ナイフで後輩君の腕を切り付けて血を吸った。そして私の唾液を後輩君の傷口につけて止血をした。傷跡があるのに痛みを感じなかったのはその作用のせい。でも、まさか後輩君に吸血鬼がいるとは思わなかった。ごめんね、後輩君。それと後輩君の吸血鬼さん。」


三日月は何も言わずに先輩を見つめていた。


















先輩が三日月のように不労所得を得ようとしないのは、一般的な吸血鬼並みの知能がないからです。一応先輩のスペックは一般的な人間<先輩<一般的な吸血鬼

という感じです。次回から下で設定の追加なんかを書くことがあるかもしれないのでご了承ください。

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