第15話

「ちょっと三日月さん、それってどういうこと?」


「そのままの意味よ。私の食糧をつまみ食いした愚か者には死んでもらおうと思うわ。あなたもついてきなさい。そのあなたの先輩とやらがどういう事になるか教えてあげるわ。」


三日月は冷たく言い放ち、彼の首根っこを乱雑に掴んだ。


「ちょ、お姉ちゃん、さすがにそれはやりすぎじゃない?そのを殺すなんて…それにそんなことしたらお兄さんも悲しむと思うよ。」


逆月が三日月をいさめたが、その言葉は全く効果がなかった。突然のことに驚きむせ返っている彼に構わずに三日月は彼を無理やり引きずる。


「逆月は甘いわね。自分の罪の重さを分からせてからそいつを惨殺するのよ。そうじゃないと私の気が済まないわ。」


三日月は黒い笑みを浮かべた。話している内容とは裏腹に三日月の目は赤く輝いていて、表情や声にもこれから力を発揮することにどこか喜びを感じている。


「お姉ちゃん、ちょっと待ちなよ。」


逆月が腕をつかむが、三日月はそれを振り払った。その勢いで三日月の力によって逆月が突き飛ばされて逆月が壁に激突した。三日月はそれに構わずに彼を連れて外へと出た。彼も三日月に抵抗したが、逆月以上に無駄に終わる。


「それじゃあ行くわね。」


三日月は彼とともに夜の空に飛びだした。ただ、前に彼を会社から連れ出した時のようにように優しく抱きかかえるのではなく首根っこを掴んで獲物を抱える猛禽類のような状態である。



 「そのあなたの先輩とやらの家はここでしょ?」


三日月は全く迷うことなく先輩のアパートの部屋の前にたどり着いた。


「そうだけど…なんで分かったんだ?」


「あら?以前に言ったと思うんだけど、あなたの血の匂いを追いかけてきたのよ。とても腹が立つことにこの部屋からあなたの血の強烈なにおいがするわ。こんな強烈な匂い、どんな吸血鬼でも簡単にたどり着くことができるわね。それじゃあここに突入するわね。あなたは下手に動かない方がいいわよ。けがをしてしまうものね。」


彼は離れずに三日月の腕をつかんで後ろに動かそうとしたが、三日月の体は石のように重く、全く動かない。


「なぁ、ちょっと考えなおしてくれないか?先輩はそんな悪い人じゃないんだ。それに吸血鬼同士が戦ったりなんかしたら三日月さんも怪我したりして平気じゃないんじゃないか?」


「ご心配ありがとうね。でもそれは問題ないわ。だって私、強いから。」


「そういう問題じゃ…」


三日月は先輩の部屋のドアを蹴破った。三日月の足とドアがぶつかる瞬間に彼はぎゅっと目をつむった。


ドン!と大きな音がしてから目を恐る恐る開くとドアがあった場所は大きな虚空が開いていた。ドアに穴をあけられたのではなく、ドアを根こそぎ蹴り飛ばされていて、所々壁まで破れている。その威力は三日月の細い脚からは到底想像することができないようなものだった。彼は吸血鬼の人間離れした力量を再確認させられた。


「それじゃあ行くわよ。あなたもついてきなさい。」


三日月はすたすたと部屋の中に入って行った。

寝屋の中では部屋着を着ている先輩がくつろいでいる態勢で驚いて腰を抜かしていた。


「何が起こったの!?あなたは誰なの!?それに後輩君…?何が起こっているの?」


おびえている先輩を三日月はじっと見下ろしている。


「あなたは誰ですって?この人の主人よ。先日は彼が随分とあなたの世話になったみたいね。」


三日月は恐怖と驚きで立ち上がれない先輩に冷たく言った。


「あなたが彼の言っていた先輩ね?よくも私の大切な食糧君に手を出してくれたわね!?その罪、死をもって償いなさい!」


三日月は吸血鬼特有の鋭い犬歯を自分の右手首の動脈部分に突き刺した。すると三日月の右手首から紅い血が勢いよく流れ出てきた。


「三日月さん!?何やってるんだ!?死んでしまうよ!」


「ふふっ、あなたにはこれから吸血鬼の戦い方を見せてあげるわ。よく見てなさい。」


三日月の右手首から流れ出た血は一定量出ると、傷口はふさがり、それ以上の出血はなくなった。そして流れ出た血はよりいっそう紅い光沢を放ち始め、結晶化して紅い槍の様な形状に変化した。彼は自分の目の前で起こったことが信じられずに二度見をしている。


「普通はこんな物騒なことはしないのだけれどあなたは私を本気で怒らせたのだからそれ相応の代償は払うべきよね?まぁあなたに払えるものなんて命くらいでけどね。」


三日月は場の空気を圧倒するような殺気を放っている。


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