第14話
数時間後
彼は目を覚ました。
「ねぇ、後輩君、大丈夫なの?いきなり眠っちゃってさ。私、心配したよ。」
彼は先輩の部屋のベッドに寝かされていた。
「あれ…?俺はあれからどうなったんだ?」
先輩が話している途中でめまいが起きてからまるで会社勤め時代に酒にのまれてしまったときの様にばたんと記憶がなくなってしまった。
「いきなりふらふらして倒れて眠っちゃってびっくりしたのよ。でも、熱もないし、顔色も悪くなかったからベッドに寝かして様子を見ていたけど、あともうちょっと後輩君が起きるのが遅かったら救急車でも呼んでたと思う。どこか悪いところはない?」
ベッドで横になっている俺の顔を覗き込んできた。
「俺は特に何も感じませんでしたけど…うーん?」
「まぁ後輩君が大丈夫ならいいけど…」
彼はベッドから起き上がろうとしてふらつくのを感じた。彼はそのふらつきを三日月たちによる吸血のせいであると思い、帰宅したら三日月に吸血量を減らしてもらおうと考えた。
「ちょっとふらついてるけど大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。俺は少し貧血気味なんで。あともうそろそろ帰らないと同居人が心配する時間なので帰りますね。」
「えっ?君同居人いるの?それって男?女?」
先輩は彼にすごい勢いで迫った。
「うわー!びっくりした!一応女ですけど…?」
彼のなかでは三日月は女であったが人間ではないため少しあやふやな言い方をした。だが彼は少なからず三日月のことを異性として見ている部分もあることは確かだ。
「へー後輩君が女ねぇ…まあいいや、今日は後輩君が寝ちゃったせいであんまり話せなかったし、また遊びに来てね。」
先輩の見送りを受けて家を出た。
彼は急に先輩との会話中に始まっためまいのことを思い出していた。彼は最近は完全にストレスフリーといってもよい環境であったし、三日月に健康管理もされていたので体調不良ということはないはずであった。彼は考えながら歩いているとあることに気づいた。
彼の右手の肘の部分に大きな切り傷の後があった。さらに奇妙なことにその傷の大きさにもかかわらず出血は無く、痛みも全くない。まるで外科手術の後のようだっった。
そして彼の着ている衣服の傷の個所に当たる場所の周りには斑点のように血が散らばって付着していた。
怪我をした箇所からの出血だというのは想像できるが、その傷跡からの出血だとしたら明らかに傷跡の治癒がさすがに早すぎることに奇妙に思っていたが、ここ以外に出血するような個所はない。
彼は傷跡や血痕の様子を確認しようと近くのコンビニへと駆け込んだ。
コンビニの電灯の下で確認してみると血痕の量は大したことはなかったが、外科手術の後のような傷跡は暗い中確認した時よりもいびつに見えた。彼は三日月に知られて心配されないよう傷跡が消えるまでは隠しておこうと決めてコンビニを出た。
「三日月さん、ただいまー。」
「遅かったわね。何かあったのかと心配したわ。」
三日月は彼を玄関まで迎えに来た。今日は彼が帰るのが遅かったため三日月は少し心配していた。
「私もうおなか減っちゃって…だから今すぐ吸血しちゃっていいかしら?」
「あっそうだ。最近吸血量多くないか?今日の昼間なんか貧血気味で少しふらついてしまったから吸血量ちょっと減らしてくれないか?」
「え?」
三日月は少し訝しむような表情をした。
「私は基本的に平均的な人間が一日に作る血液量から考えて貧血にならないように考えて吸血しているのだけど…おかしいわね。どこか体調が悪いの?」
三日月はそのまましばらくうーんと唸ってしまった。
「まあいいわ。体の調子が悪い時もあるだろうし、少なめにしといてあげるわ。じゃあこっちに来て首を出してくれるかしら?」
三日月はいただきますと言ってカプリと彼の首元にかみついた。彼は地震の体内に入ってくる快楽物質にうっとりとよがり始めた。快楽に身を任せようと目を閉じると、彼が感じたのは快楽ではなく鋭い痛みだった。
「ん!?痛い痛い!!三日月さん!?」
彼は突然三日月にすごい力で牙を奥に刺された。止血はされていたが、噛み跡がくっきりと残っていた。普段の三日月は俺に気を使って吸血してくれているのに初めてのことだった。
「ちょっと三日月さん!?何するんだ!?」
三日月は牙を引き抜いた。牙にはべっとりと俺の血が付着していた。
「あなた、私を裏切ったわね!絶対に許さない!」
「え?裏切った?」
彼は三日月がなんのことを言っているか見当がつかなかった。今朝の三日月の様子からは考えられないような表情になり激高している三日月に対して不思議に思った。
「ごめん?何を言っているか分からない。どういう事か教えてくれないか?」
「しらじらしいわね。まぁいいわ。裏切り者の君は忘れているようだから思い出させてあげるわ。感謝なさい。」
三日月の口調は氷のように冷たかったが顔は今まで俺が見たことのないくらい怒っているのが分かった。
「あなたをあの会社から連れ出したときにあなたは私の専属食糧になるって約束したわよね?それなのになんでなんで他の吸血鬼に血を与えているのよ!?」
三日月は彼を叱り飛ばすような大きな声を出し、近くにあった机をドンっとたたいた。吸血鬼である三日月の強い力のせいで机の叩かれた部分がへこんでしまった。
怒りにとりつかれている三日月に反して俺はここ数日の行動を思い返していた。
三日月の言う通り、俺は確かに三日月以外の吸血鬼に血を与えたことがあった。しかしそれは数日前に逆月にばれないように指先から少量与えただけであるし、今頃気づかれるのはおかしい。だが、それ以外に思い当たる節は全くなかった。
「あのーそう言われてもまったく思い当たる節がないんですけど。ほかの吸血鬼に血を与えたなんて…」
「今日の朝は何も感じなかった。じゃあ今日の昼間に無理やり吸われたんだろう?お前今日の昼どこに行ったんだ?」
怒りのあまり口調まで変わってしまっていた。
「今日は…会社勤め時代の先輩に会ったので彼女の家に行って、そこでなんか寝ちゃったあと、帰って来た感じでした。」
「本当にあなたは私以外のほかの吸血鬼には今日血を与えていないのね?」
「もちろんです。今日の朝に三日月さんに吸われて以来誰にも断じて吸わしてません。」
三日月はハァとため息をついた。
「そこまで言うなら信じてあげるよ。でも血の味からしてほかの吸血鬼に吸われていたことは明らかなのよ。あなたが吸わしていないのならば、無理やり吸われたか知らない間に吸われたかのどちらね。あれから何か変わったことはなかったかしら?」
そこで彼は右ひじにある奇妙な傷跡のことを思いだした。その傷は痛みもなかったためいつどこで負ったものなのか彼は見当がつかなかったものだ。
彼は服の袖をめくると傷跡を三日月に見せた。三日月は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに何かを確信したような表情になった。
「それは吸血鬼に吸われた跡ね。こんな跡が残っちゃうなんて下手な修復をしたものね。」
普段三日月が吸血する際はいつも同じ箇所に傷をつけているが、そこに傷跡は残っていない。要するに傷が残るというのはそれだけ吸血が下手であるという証拠である。
「しかもここまで大きな傷が残るということは相当焦っていたんでしょうね。吸血者を考えるとあなたの今日の行動からして吸われたのはその会社の元先輩に間違いないでしょう。即効性の睡眠薬なんかをあなたに飲ませてね。」
「先輩が…?先輩は吸血鬼ではないと思う。なぜなら会社で何度か一緒に食事をしたことがあるし。」
「そんなことはどの吸血鬼だってできるわ。人間と違って食べても栄養にならないだけでね。とりあえずその女には私から直々に制裁を加えてあげる。わつぃに歯向かうということがどういうことかを教えてあげなくてはね。」
三日月はにやりと嗤うと目を紅く輝かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます