第10話
三日月の話が終わり、ソファーで寝ていると何かの物音で目が覚めた。彼は目を擦りながら上半身をソファーから起こし、周りを見てみると、誰かが近づいてきているのが分かった。
「だ、誰だ!?」
彼は恐る恐るその誰かに声を掛けた。
「しっ!静かにして!」
声の主は彼に素早い身のこなしで近づいてきて、彼の口元を抑えた。
「もがもが…(ちょっと何するんだ!離してくれ!)」
声の主は彼の言いたいことを感じ取ったの彼の口元から抑えていた手を離した。
「いい?大声は出さないでね。もし出したら私、どうなるか分からないよ?」
「わかったよ。それでお前は誰なんだ?」
「あれ?分からないかなぁ?」
声の主はあっけらかんとした口調で言った。彼は自分の細菌の記憶を振り返ってみると、直近にどこかで聞いたことがあるような声の様に感じた。というかすごく聞き覚えがある声だった。
「もしかして三日月さんの妹の逆月さん?」
「はい、正解!すぐにわかってくれると思ってたんだけど忘れられていたなんて少し寂しいなぁ。」
そうはいっても、彼は逆月とまともに話すのはこれが初めてなので仕方がないと思った。
「それで逆月さんが俺に何の用かな?」
「吸血鬼の女の子が深夜に男性のところに来るなんて理由は一つしかないでしょ?」
彼は逆月の誘惑するような態度に少し興奮し、顔が紅潮し始めるのを感じた。
「はい、時間切れ!残念だけどあなたが想像していたことは違いますよ~。もしかしてエッチなことでも想像した?」
「いや、そんなことはないぞ…」
俺は紅潮した顔を見られないように下を向いて答えた。
「本当かなぁ?怪しいなぁ。それで正解発表だけど、私がここに来た理由はあなたの味見をしに来たのよ。」
「え?味見?」
「まあ血の味見ってところかしら。」
「三日月さんが言っていた通り俺の血はおいしくないぞ。飲まない方がいいと言われていたじゃないか。」
逆月はふっふっふと含み笑いをした。
「あんなのを本気で信じると思った?信じていた振りをしていただけだよ。お姉ちゃんはね、昔一人の人間に固執することはなかったし、ましてや人間をそばに置いておくことなんか絶対にしなかったんだよ。それなのに昨日来てみればあなたをそばに置いている。それはどういうことかわかる?お姉ちゃんがあなたに何か魅力を感じているからよ。という事で本当はあなたの血液ってお姉ちゃんをうならせるほどおいしいんでしょ?」
「そ、それは…」
彼は逆月の推理の鋭さに驚いて返答に困った。実際彼の血は三日月にとても気に入られている。
「ねぇ、ちょっとだけでいいから私にも血を分けてよ。お姉ちゃんに内緒でさ。」
「はぁ、分かったよ。ちょっとだけな。」
彼にとってははっきり言って面倒くさかったし、早く再び寝たかったので少しだけ血液をあげることにした。
彼が首を差し出すと逆月は首を振った。
「首筋に噛みついたらお姉ちゃんにバレちゃうでしょ。あなたの人差し指を出して。」
言われた通りに右手の人差し指を差し出すと、逆月は彼の指の腹に牙を立てた。そして俺の指にふっくらとした唇を押し当ててちゅうちゅうと吸血した。首に噛まれたわけではないのであまり痛みも感じず、三日月に吸血された時のような快感もあまりない。
逆月は数秒間吸血すると、ちゅぱっと音をたてて彼の人差し指から離れた。
「やっぱりお姉ちゃんが気に入るだけあってものすごくおいしかった。お姉ちゃんはこんなにおいしい血を持っているお兄さんを独占しようとしていたなんてずるいなぁ。本当は血の濃いところに噛みつきたかったけど、そんなことしちゃったらおねえちゃんにバレちゃうしね。これからもちょっとだけでいいから私にも血をくれない?」
「しょうがないからちょっとだけならいいよ。」
彼は初め、許可するつもりはなかったが、吸血しているときの逆月の表情があまりにも愛おしく感じたので許可した。その表情はあまりにもかわいくて、危険な方向の性癖に目覚めてしまいそうなほどだった。まあ実際は吸血鬼なので見た目の何倍も年を取っているので合法ロリである。違法であったとしても吸血鬼には刑法は適用されないであろう。
「やったー!ありがとうね。」
「ちょ、声が大きい!」
俺は慌てて逆月も口を抑えた。
「じゃあこれからもよろしくね、お兄さん。」
そういって逆月は俺の寝室に帰っていった。
「これからもよろしくね、お兄さん、か…」
彼は一人っ子なのでそう呼ばれたことはない。可愛いロリっ子にお兄さんと呼ばれることに恥ずかしく感じ、妹がいる世の兄たちが少し羨ましく思えた。
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